懲罰への対抗

「フォッカーの懲罰」とはいわれますが、実際のところフォッカーアインデッカーは、先進的な設計の戦闘機というわけではなく、言うほど効果的に集中運用されたわけでもありませんでした。

 機体は、モラーヌ・ソルニエHを基にしたものでしたので、あくまでもプロペラ回転圏内から同調装置で射撃ができるという武装の点にあります。

 それでも、連合国側の飛行機は、戦闘機がやってくると一方的に狙い撃ちにされるという恐怖が浸透していくことになります。戦ううえで士気に関わるわけですね。

 空での戦いは幕を開けたばかりであり、ドイツも効果的に運用する戦闘機のみの飛行隊が誕生するのは、また後になります。

 ドイツ軍では、このフォッカーアインゼッカーによって何機も飛行機を撃墜する初期のエースが登場するようになりました。

 エースパイロット、つまり切り札のパイロットです。

 

 エースパイロットの登場は、まるで騎士が戦場で一騎撃ちをして競い合うような、英雄的なイメージを人々に与えます。こうした空の英雄の誕生は、戦意高揚にも役立ちました。こっちは士気が上がったわけです。

 フォッカーアインデッカーという戦闘機は、マックス・インメルマン、オズヴァルト・ベルケなど、初期の撃墜王を生むきっかけとなります。

 エースというのは、五機以上撃墜したパイロットへの称号です。当初は一〇機以上撃墜だったのですが、遅れてアメリカ軍が参戦したことによって五機となります。

 ともかく、こうしたエースが生まれるくらいには、空の戦いも激しくなっていき、のどかではなくなっていきます。

 エースについては、また別項で解説しましょう。


 さて、連合軍側も空の戦いで押されはしましたが、フォッカーアインデッカーに対抗するための戦闘機がやってきます。

 連合国側も、飛行機と戦うための戦闘機を誕生させます。

 

 まずはイギリス、エアコーDH.2。

 エアコーDH.1は複座、二人乗りだったものを単座の一人乗りにしたものです。

 この機体の特徴ですが、プロペラが機首部分についていないことです。

 胴体部分の後ろについたプロペラが、機体を押し出して飛ぶ仕組みです。これを推進式あるいはプッシャー式などといいます。

 こうすると何がいいかというと、プロペラが前にないので同調装置がなくても発砲できるということでした。

 連合国側は、まだまともな同調装置がありません。

 武装は7.7mmルイス機銃一丁。これを操縦席内にある可動式の架台において使用できるようにしてありました。パイロットたちは真ん中に固定するようになります。

 実戦試験中に一機が撃墜されましたが、その後はフォッカーアインデッカーとも対等に戦いました。

 機動性も高く、操縦も容易だったようです。


 そしてフランス、ニューポール11。

 小型だったので、赤ん坊を意味するベベ(ベイビー)の愛称があります。

 こちらは機首前面にプロペラがついています。この形状をプロペラが引っ張るので牽引式といいます。翼は、上下機に二枚。複葉機のように見えますが、下翼が小さい補助翼なので、一葉半です。

 武装はエアコーDH.2と同じルイス機銃一丁。

 取り付け場所は、上翼の真ん中です。

 このまま、操縦席から遠隔操作で発射するのですが、当時は機関銃の弾丸も高い精度で量産できるものでもなかったので、機関銃を撃っていると弾詰まりします。

 飛んでる最中に弾詰まりしたら、死活問題です。飛行しながら翼の上の機関銃を直しに行くとか、曲芸やるわけにもいきませんし。また、弾切れして再装填するときも同じ問題が発生するわけです。

 そこで、飛行中でも整備(ぶっ叩いて直す程度ですが)できるよう、翼の上から操縦席の目の前まで簡単に引き降ろせるレールがつけられました。

 このレールと固定用の銃架を、フォスター銃架といいます。

 ニューポール11はイギリス軍も買ったので、イギリス軍でよく使われました。

 信頼に足る同調装置がないという理由でこうなったわけですが、この苦し紛れにも見える措置は新しい戦法にも繋がりました。

 操縦席まで降ろす途中で止め、敵機の下に潜り込んで斜め上に射撃するのです。

 この時代の戦闘機は、機体の下は死角です。この斜め撃ちを得意としたエースパイロットもいますし、第二次大戦でも一部で採用されます。

 ニューポール11は、機体性能では凡庸で時代遅れになりつつあったフォッカーアインデッカーよりも軽快で操縦性能もよく、優位に戦うことになります。

 フォッカーの懲罰に対する恐怖も、一旦は終焉を迎えます。

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