戦間期

戦間期という時代

 戦争と戦争の間を、戦間期といいます。人類の歴史から戦争が根絶されたことはないので、平和が来てもまた戦争がやってきます。

 平和は次の戦争への準備期間だなんて言われることもありますが、その是非はさておき、この章では第一次世界大戦から第二次世界大戦までの戦間期におけるプロペラ戦闘機の歴史を語っていきましょう。


 第一次世界大戦は、膨大な人命を損耗しました。欧米諸国は、絵空事ではない平和を求め、アメリカ大統領ウィルソンの提唱した国際連盟の発足に繋がります。

 敗戦国となったドイツは革命によって共和国になり、膨大な額の賠償金を背負わされ、軍事力を解体されることになります。このような各種の講和条約によってもたらされた国際秩序をヴェルサイユ体制といいます。

 このヴェルサイユ体制でも戦争は防げず、また戦争の遠因になっていきますが、ともかくも一旦は平和が訪れました。


 戦争に飛行機が投入された結果、着弾観測以外にその必要性がさまざまあり特に爆撃とプロペラ戦闘機の必要性がわかってきました。

 そして運用の仕方についても研究が行われました。

 空からの爆撃は脅威で、戦場以外にも都市に爆弾落っことされたら被害が甚大、軍には防空という概念が必要であることもわかり空軍が独立することになります。

 大戦末期、イギリスは世界初の空軍を創設します。イギリス王立空軍ロイヤルエアフォースの誕生です。

 ちなみにロイヤルエアフォースとロイヤルネイビーは存在しますが、ロイヤルアーミーは存在しません。名誉革命による権利の章典で、国王が議会の許可なく陸軍を常設することができないと明文化されたからです。どうでもいい豆知識です。


 次の戦争でも、飛行機はさまざまに活躍することになる。そしてもっと強いプロペラ戦闘機が必要になってくる、そうなります。


 プロペラ戦闘機の性能は飛躍的に上昇し、戦争末期にも優れた機体がいくつかありました。ただし、性能が良くなるとまた運用も難しくなりますし、新たな問題点や新しい戦術も模索されます。

 

 この戦間期に模索され、第二次世界大戦でも運用される飛行機を三つ上げておきましょう。水上機、空母、爆撃です。


 水上機というのは、水面から飛び立つ飛行機のことです。もっと細かくいうと、水上機と飛行艇があります。

 フロートという浮きを脚につけて水の上に離着陸するのが水上機、船みたいな胴体で水面に浮ぶことができ、胴体で離着陸するのが飛行艇です。

 飛行機を運用するうえで、各国とも大きな壁にぶち当たりました。

 それは飛行場がいるということです。

 飛行場を作るというのは、広い土地とそこを飛行機が滑走、離陸できるよう平地にするための土木工事技術が必要となります。

 飛行機というのは、スビードを上げて滑走し、揚力を得て飛び立つのですが、スピードを上げる助走をする場所、そしてスピードを徐々に落としながら着陸する場所が必要です。

 しかし、日本を見ればわかるように、飛行場を建設できる平地を確保するのもひと苦労という例もあります。

 それを解決する方法がありました。


 飛行機が陸から飛び立たなきゃいけないなんて誰が決めた!


 というわけで水面への離着陸が試みられました。ライト兄弟の初飛行以前にも、実は水上機の離陸が検討されたこともあったのです。

 湖や海の水面は障害物がない平面で、土木工事も必要ありません。

 また、海で戦う海軍も偵察、砲撃の着弾観測や船舶への攻撃、そして艦隊を航空機から守るプロペラ戦闘機が必要となってきます。

 ですから、次の戦争で活躍するのは水上機だと開発に力が入りました。

 実際、戦間期に水上機は大きく発展します。映画『紅の豚』の時代です。


 そして次に空母。航空母艦の略です。

 艦隊を空からの爆撃から守るには、プロペラ戦闘機が必要になってきました。

 前記の水上機をたくさん積んで、水上機による護衛や爆撃を行おうという戦術が試みられます。

 水上機をたくさん積んだ船を、水上機母艦といいます。

 また、水上機の開発とは別に、直接艦船から飛び立つ飛行機の研究もこの間になされていきます。フロートがないといろいろ取り回しがいいからです。

 この直接離着陸できる飛行甲板と飛行機を収容できる格納庫を持った艦船が航空母艦といわれるようになります。

 各国の海軍とも空母の研究に勤しみますが、あくまでも海の戦いで勝敗を決するのは戦艦同士の砲撃だと思われていました。飛行機から爆弾落としてもこの頃は命中するかもわからないし、戦艦というものは自分の砲撃に耐えられる防御力を備えるよう設計するのが基本で、航空機が搭載する爆弾では撃破できないというのが当時の常識です。その常識が覆るのは、次の戦争が始まってからです。


 最後に爆撃です。

 ドイツによる爆撃の効果は、被害もさることながら、国民に対して大きな動揺を与えることがわかりました。

 第一次世界大戦は総力戦でしたが、次の戦争もまた総力戦になります。

 世界初の飛行機による爆撃を行なったイタリア軍には、ドゥーエという軍人がいました。彼は戦中も爆撃の必要性を主張した人物です。

 イタリア空軍は歴史的にも軍事的成果を上げた組織で、注目されていました。

 ドゥーエは結構上層部と対立して役職を辞職したりするのですが、戦間期に『制空』という軍事研究の著書を発表します。

 航空優勢の確保と戦略爆撃とその専用の部隊を保持するというものです。

 これからの戦争は総力戦であり、都市部への爆撃で民衆に動揺を与えれば、生きることを望む本能にしたがって戦争の終結を望むようになる、結果的に戦争が早く終わって流血も少なく、はるかに人道的だと、空からの無差別爆撃を提唱しました。

 爆撃で殺される民衆としてはたまったもんじゃありませんが、この『制空』が世界の軍事関係者に与えた影響は衝撃的で、各国とも爆撃と防空を意識していきます。


 戦間期編では、まずこの三つについて語っていこうと思います。

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