バレンタインに私を食べて♡

無月兄

第1話

 明日はバレンタイン。恋する女の子にとって特別な日だ。

 もちろん私だって例外じゃない。大好きな先輩に、手作りチョコを渡すんだ。


 先輩はとってもカッコよくて、女の子からの人気も凄いの。だからこそ私も好きになっちゃったんだけど、それだけに上手くいくか心配。

 そりゃ先輩は優しいから、私がチョコをあげたらきっと美味しいって食べてくれる。けどだからと言って、私を好きになってくれるとは限らない。

 それじゃダメだ。チョコを渡すだけでなく、ちゃんとその後両想いにならないと。


 目指すべきハードルは高い。けとだけど私には、ある秘策があった。チョコ作りの準備をしながら、傍らに置いてある一冊の本を手に取る。


「じゃーん、『月刊黒魔術』!」


 ついテンションが上がって叫んじゃったけど、これこそが秘策の正体だ。

 毎月様々な呪い……もといおまじないを届けてくれるこの雑誌。しかも今月はバレンタイン特集で、意中の相手が自分を好きになってくれるおまじないがたくさん載っている。恋する乙女の強ーい味方だ。


 と言うわけで、黒魔術片手にレッツ・クッキング!


 まずは普通に細かく刻んだチョコを湯煎にかけて、いよいよこれからが黒魔術の出番。おまじないは沢山あるけど、何がいいかな?


「えーと、なになに。チョコの中にあなたの唾液をポトリと入れる。って、何をやらせようとしてるの!」


 事前によく読んでいなかったのが悪いんだけど、書いてある内容を見てビックリした。唾液を入れるって、それって、それって……


「間接キスじゃない!そんな、まだ正式に彼氏彼女になってないのに、早すぎるよーっ!きゃーっ、どうしよう!?」


 ──なんて言いながら、結局はポトリと入れる。これでよし。

 考えてみれば、先輩とはこのチョコを使ってもうすぐ恋人同士になる運命。ちょっとキスの前倒しするくらい、どうってこと無いよね。

 それから私は、本に書いてある通りの呪文を唱えた。


 さて、これでこのおまじないは終了だけど、せっかくだからもっと色んなおまじないを試してみたい。きっとその方が効き目もよりアップするだろうしね。


「──チョコの中にあなたの髪を入れる」


 髪は女の命。これは、命がけであなたを愛していますって言う一途な想いも一緒に届けることができるね。よし、やろう。


「──あなたの爪を入れる」


 細かく砕けばクランチチョコみたいに食感が変わって楽しめるかも。やろう。


「──あなたの血を」


 やろう。


 こうして作り続けて、ついに完成した私の手作りチョコ。


「私の愛情と、唾液と髪の毛と爪と血がたーっぷり入ってるよ」


 これはもう、このチョコの主成分は私。いや、このチョコは私の分身、むしろ私自身と言っても過言じゃないね。


「さあ先輩私を食べて♡」




 バレンタイン当日、私は無事先輩にチョコを渡したんだけど、先輩はそのさらに翌日、学校を休んだ。聞くところによると、なんでもお腹を壊したらしい。







 追伸

 再び登校してきた先輩と私は、晴れて彼氏彼女になれました。

 虚ろな目で、私に向かって「アイシテル」としか喋らなくなった先輩。まさかこんなに効き目があるなんて、おまじないって凄い!


 ありがとう『月間黒魔術』。次は君も試してみる?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

バレンタインに私を食べて♡ 無月兄 @tukuyomimutuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ