三十五年目のラブレター

作者 如月芳美

一番価値のあるものを奪ってやる

  • ★★★ Excellent!!!

ミステリーが好きだ。
表紙裏に書かれた登場人物から吟味する。犯人は誰だろうと。
本格ミステリーは読者への挑戦状だ。犯人に辿り着けるギリギリの情報を開示し、読み解く楽しさを与えてくれる。そして外れても、納得のいく外れ方なのだ。
作者との駆け引き、知恵比べが楽しい。だからミステリーが好きだ。
なので私はフーダニット(だれがやったか)が好きなのだろう。


『一番価値のあるものを奪ってやる』

活字を切り貼りした怪文書が、三人の元に届く。
アートギャラリーを経営する中橋。横領で逮捕された阿久津。強制猥褻で逮捕された西川。

この小説の容疑者は七人。(内ふたりは既に他界)
全て同じ大学の登山サークルに所属していた。
ただし、サークルはアウトドア派とトレッキング派の二つに分かれている。

『アウトドア派』
阿久津文明(六十歳)建設会社経理部長。業務上横領容疑で逮捕。
西川修(六十歳)都議会議員。強制猥褻容疑で逮捕。
内藤きよみ(五十九歳)小料理屋を経営。アパレルメーカー経理、クラブのホステス。現在はスナックのママ。
木立美琴(享年五十六歳)専業主婦。夫に先立たれ、後を追うように他界。

『トレッキング派』
桐谷武彦(六十歳)商業高校でこの春まで簿記の教師。
中橋洋一(五十九歳)アートギャラリーナカハシのオーナー。
宮脇恵美(享年二十六歳)

宮脇恵美と桐谷武彦は付き合っていた。
怪文書が届いたのは阿久津、西川、中橋。

誰が犯人か。もうお分かりだろう。
そしてこの小説は序盤で犯人が提示される。犯人捜しではなく、動機の解明である。

Who done it?「だれがやったか」
How done it?「どのようになされたか」
Why done it?「なぜおこなったか」
でいくと、今回は三つ目のホワイダニット(犯行の動機)の話だ。


アウトドア派の女性二人が職を転々としたり、夫の後を追うように他界したのに比べ、男性二人は地位と金を手にしている。この落差に違和感を覚えた。
女性側は、大学時代になにかしら心に傷を残すことがあったのだろうかと。
多分それは、犯行の動機となった事に類似しているのではと。

犯人の寂しい人生と、悲しい過去。同情する結末である。
だが、ただの動機探しではなく、豊富な絵画の知識や二人の刑事の恋模様がいいスパイスになっている。
ミステリーとエンタメと恋愛が適度に調合された、構図のよい絵画のようだ。

この作者の作品はどれも堅実で無駄がなく、ピシリと織り込まれている。
肥後守という小道具ひとつにしても、使い方が粋だった。

ミステリ読みの私は、なにより納得感を得たい。言動にはそれを起こす動機がある。後付けの説明ではなく、きちんと前振りをして欲しい。
そんな我が儘な読者の希望を、当然のようにかなえてくれる作者だ。

私にとって一番価値のあるものは時間である。二度と取り戻せないからだ。
納得感のある充実した時間をもらえた作品、そして作者に、拍手を贈りたい。

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