第33話 開拓23日目 壁起こし 上部壁パネル①

◇  ◇  ◇


[ 開拓23日目 ]


 朝はまだ陽が昇る前に起き出し、自家発電機を回して電動工具類のバッテリーを充電し始めた。今日の作業も壁パネルの接合にインパクトドライバーを多用するので、そのバッテリーが切れない様に予備バッテリーと合わせて満タンにしておく。


 昨日打撲を負った腕と肩の患部は、腫れて熱を持っていた。


 セオリー通りであれば、氷や保冷剤を用いて患部を物理的に冷却するのが良いのだろうが、この山中にそれらはない。買いに行く手間がもったいないと考えたので、定期的に濡れタオルで拭いてその気化熱で患部を冷やすことにした。たとえ氷があっても作業中に患部に当て続けるということは無理なので仕方がない。


◇  ◇  ◇


[ 下部壁パネルの立ち上げ ]


 今日は最後の下部壁パネルを立ち上げることから始める。


 最後の下部壁パネルは、窓用の開口部がある短辺の壁パネルで、重量は重い。また、他の壁パネルと隙間なく埋まる様に設計しており、立ち上げるときに左右が接触するため、左右の壁パネルを押し拡げる様に立てなければならなかった。


 そのため、例のごとく、合板を取り外して軽量化し、壁枠だけ先に立てることにした。


 昨日の作業から様々なことを学んでおり、作業方法にも幾つかの工夫を加えたが、その一つが壁枠にあらかじめコーススレッドを半分埋まるぐらいまで打ち込んでおくというものであった。


 以前は下穴だけを開けておいたが、いっそのことあらかじめ打ち込んでしまうことにしたのだ。このことによって、壁パネルを立てたから仮固定できるまでの作業時間をほんの少しだが短縮することができる様になった。ほんの少しのことだが、この少しの積み重ねが作業を安全に行うために重要になるのだと感じた。


◇  ◇  ◇


 最後の壁枠を立ち上げ、素早く片方の壁枠と三本ほどのコーススレッドで仮接合した後、もう片方の側をプラスチックハンマーでガシガシ叩いて位置を合わせていく。そして位置を合わせた後に壁枠と床・土台をガッチリと固定していく。


 片方の固定が終わり、壁枠が倒れる危険性が無くなってから仮固定のコーススレッドを取り外し、同じ様に位置を微調整してからもう一度、次は完全固定していく。


 一つ一つ確認していく様な、手間も時間も掛かる方法だが、順番に作業して行けば少しずつ着々と作業を進めていくことができるのだ。


 最後の下部壁パネルの外側に合板を再貼り付けして、下部パネルの立ち上げは完了した。


◇  ◇  ◇


 四方の面と床・土台がガッチリと接合された壁パネルは、押しても引いても全く動揺しない頑丈さを誇った。蓋の空いた木箱やダンボール箱を想像すると分かりやすいかもしれない。箱という形状はとても安定性が高いのだ。


 下部パネル立ち上げ後の小屋に入ると、広さは六畳ほどで普段住んでいる大阪の自宅アパートと変わらないはずだが、それよりも断然広く感じた。


 まだ内装も家具も何も無い状態だからかもしれないが、この広い空間を今後どう活用していこうかと考えるとワクワクする。木製の本棚や工具棚、薪ストーブはぜひ設置したいところだ。


 その様なことを思いつつも、引き続き次の上部パネルの設置作業に取り掛かった。


◇  ◇  ◇


[ 上部壁パネルの設置 ]


 上部壁パネルは下部パネルより小さく軽い設計としている。これは施工の難易度を下げるために天井の高さをやや低めに設計しておいたがためである。代わりにロフトのスペースがやや狭くなってしまうがそこは妥協することにした。


 さらに上部壁パネルも壁枠に合板を貼る構成となっているが、合板の一部は下部パネルと共有する設計とすることでさらに軽量化を図り、上部パネルを下部パネルの上に重ねて置く際の難易度を下げている。


 とは言っても、やはりそれなりに重量はあるので、上部パネルを両手で持ちながら脚立に昇るのは至難の技であった。

 

 そこで今回はまず、ロフトに使うの木材を下部壁パネルの上に渡して仮設のロフトを作り、一度その仮設ロフトの上に壁パネルを持ち上げてから壁パネル接合の作業することにした。


◇  ◇  ◇


[ ロフトの仮設置 ]


 今回作る小屋はロフト付き六畳一間の設計としている。


 この基本設計は、書籍やwebサイトなどで多くの先人たちの設計を見て参考としたものである。


 建築物を作るときに、床面積が10㎡以上となる場合は建築確認申請が必要となり手続きが煩雑となるが、六畳というサイズはそれよりギリギリ小さい9.9㎡の床面積となるのでそれを回避できるのである。


 またロフトを設けることで空間を最大限利用することができるので、小家作りにおいてロフト付きとする設計はマストと言って過言ではないだろう。またロフトは上部パネルを立てる際の足場としても使える。


 ロフトの作成には追加の木材や手間もそれほど掛からないのだ。


◇  ◇  ◇


 ……と、軽く考えていたが現実は違った。


<続く>

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る