第30話 開拓22日目 壁起こし①

◇  ◇  ◇


[ 開拓22日目 ]


 朝、天気はまだ少し曇っており、ときおり風も吹いていたが正午からは晴れる予報となっていた。


 Yahoo天気予報アプリで確認すると、これから先の一週間、雨マークは1つも付いておらず、絶好の作業日和といえる。


 今日はいよいよ『壁起こしかべおこし』を行う。


◇  ◇  ◇


 今日の作業は万が一の事態に備え、黄色い作業用ヘルメットを着用して行う。


 また大工作業用の『腰袋こしぶくろ』を装着し、その中に大量のコーススレッド(ネジ)を入れておき、腰袋外のフックにはインパクトドライバーを引っ掛けておきながら作業する。こうする事によって壁パネルを固定するためのビス留め作業を出来る限り速やかに行うことができるのである。


 まず、建設エリアのブルーシートをはずし、これまでに作成しておいた壁パネルと土台・床の状態を確認する。


 昨日の夜に少しだけ降った雨は直接木材を濡らすことはなかったが、それでも木材は湿気を含んでいた。地面から上がってきた湿気を木材が吸収してしまったのかもしれない。地面からの湿気は今後対策を考えなけれ無ければならないところだが、とりあえずは小屋を一通り完成させることを優先する。


 これから床の上に壁パネルを立てて、床・土台と壁パネルを接合する『壁起しかべおこし』の作業を行うのだ。


◇  ◇  ◇


 2×4工法における壁起し作業を一人で行うのは難易度が高いとされる。なぜなら壁パネルは重量が重く、それを不安定な状態で床に立てて位置の微調整も行い、ビス留めしていかなければならないからだ。


 特に最初の1枚目は難易度が高い。壁パネルは他の壁パネルと接合することで支点が増えて安定性も増していくが、最初の壁パネルはわずかな底辺の面積で床に接しているだけなので、非常に不安定であり、その状態で固定作業をしなくてはならないのだ。


 もちろん、この作業をできる限り素早くかつ安全に行うために前準備として、壁パネルの各部分にはあらかじめ下穴を空けておいてコーススレッドを打ち込みやすくしたり、壁パネルが床の外にはみ出さない様に土台にストッパーの木材を取り付けることで、壁パネルの位置合わせの作業を楽にする工夫を行っている。


 また壁パネルの左右にコーススレッド1本だけで留めた『仮筋交いかりすじかい』の木材を準備しており、壁起し後に仮筋交いと土台と接合するとこで壁が倒れる危険性を軽減するよう対策を行なっている。


 今回、最初に建てる壁パネルは高さが約180cmほどあり、私の身長よりも全然高い。重量も60~70kgほどはあるため、立ち上げの難易度は決して低くはないだろう。


 床の上を清掃し、他の壁パネルを退けてからいよいよ最初の壁起しを行っていく。


◇  ◇  ◇


 今回の壁起しはジャッキや滑車といった道具は使わず、角材とコンクリートブロックを用いて行う。


 まず壁パネルの片端を少しだけもちあげて、隙間に角材を挟み込む。次にその角材を使って隙間を大きくしたところにブロックを挟み込んで隙間を大きくする。同じこと逆端でも行う。さらに壁パネルを少しづつ持ち上げ、追加のブロックを積増していく。


 ブロックを3つほど積んだところで、そろそろブロックの安定性も心配になってきたので、あとは人力で一気に立ち上げることにした。


◇  ◇  ◇


 壁パネルの下に両手を入れ、呼吸を整えてから全身に力を入れ、一気に持ち上げるッ、


 ッが、とても重い!


 しかし途中でやめるわけにはいかない!! 力を抜くと自分が潰されてしまう!!


 全身の力を振り絞り、押す、 そう、 "立ち上げる" のではなく "押す!"


◇  ◇  ◇


 限界まで力を振り絞り、なんとか立ち上げることが……出来た。


 立ち上げた壁パネルから恐る恐る手を離すと、壁パネルは倒れることもなく、底辺の木材だけで床に接し、自立していた。


 その時、不意に後ろから強い風が吹き付けた。

   

◇  ◇  ◇


 最悪のタイミングで吹き付けた強風、咄嗟に壁パネルの枠材を両手で掴んで倒れないように必死に耐えた。


 ”なんでこのタイミングで!?”予期せぬ出来事に戸惑い、


 ”早くこの風が収まってくれ”と心は絶叫している。


◇  ◇  ◇


 どれだけ時間が経っただろうか、ほんの一瞬だったのか数十秒だったのか分からない。


 ……風は収まった。


 わずかな面積で床に乗っているだけの壁パネルは合板を貼ってしまっているので風に押されることに凄く弱い。自立できているといっても、合板を貼った側に重心が偏っており非常に不安定な状態だと言える。


 一刻も早く、コーススレッドを打ち込んで固定を行わなければならない。 


◇  ◇  ◇

 

 まず、ブラブラしている仮筋交いを土台に固定する。左右の仮筋交いさえ固定してしまえば大分安定するはずだ。


 床から地面に降り、急いで一方の仮筋交いの位置を調整し、土台に留める。


 焦りでコーススレッドを取り出す自分の手が震えているのを感じた。


 この作業中にもう一度強い風が吹けば、壁が倒れてしまうかもしれないのだ。


 下穴は念のため三箇所ほど開けておいたが、急いでいるので一本だけ留めた。そして逆側の仮筋交いを留めるため、壁パネルの外側を通り抜けようとした。



 その時、



 もう一度、強い風が吹き付け……、 




 ……壁パネルは、倒れた。



 ……



 …………。



 私はその下敷きになってしまった。




 <続く>

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