第8話 閑話 山本伝説

これは今年の夏の甲子園初戦での出来事だ。

俺は7回の表 0アウト 2、3塁のピンチでライトからピッチャーに交代した。

6回までパーフェクトピッチングだった誠司だったが四球から安打を打たれピンチを招いた。

ピッチャー交代は誠司からの頼みで監督がピッチャー交代をした。

俺がマウンドに向かう際は甲子園球場が大きく盛り上がった。


「雅博後は任せた。すまんピンチを招いて」と誠司は謝った。


「気にすんな。俺が抑えてやる。次の試合は万全な状態に整えろよ」


「おう。頼んだぞ」


『長谷田高校ピッチャーの変更をお知らせします。

ピッチャー成宮くんに変わりまして山本くん』


「「「おおーーーーーーー」」」と球場全体が湧きだった。


3年の夏の予選決勝で最速157kmを計測していた。


「雅博、思いっきり投げて来い。全部受け止めてやる」と強気の怜


「分かった」と呟き投球練習をした。

投球練習自体は調子は良い。しかし、安打どころかフライも打たせたらいけない場面だ。

そして、相手は強力打線を誇るチームでクリンナップだ。


『プレイ!』と審判の声が上がった瞬間、俺は思いっきり振りかぶった。

俺は、左脚を大きく前に出し腕を振った。


「バンっ!」と大きなミットの音が響いた。


『ストライク!』

計測は153kmで会場はどよめいた。

高校生で150km投げる人は少ないからだ。

それなのに高校時代160kmを計測した大谷翔平選手は本物の化け物と思う。


怜からのサインはスライダーだ。俺はストレートと予想していたが予想とは違かった。


サイン通りにスライダーの握りをして振りかぶった。


「うりゃ!」と変な声がかかるがたまにでる声だ。


「カーン!」と鈍い音が出た。ファールだ。

これで追い込んだ。


次のサインはもちろんストレートだ。

3番は絶対に抑えてやるとの思いで大きく振りかぶった。


「おりゃっ!」と叫びながら投げたストレートは勢いよくアウトローに決まった。


「バーン!」とミットの音。

『ストライク!バッターアウト!」

球速は157km 自己最速タイだ。


「「「うぉーーーーーーーーー」」」地響きのような歓声。


まだまだだ。4番5番を抑えないと意味がない。


そして4番の大山くんがバッターボックスに入った。

ちなみに、阪神の大山選手とは何も関係はないようだ。


サインはストレート。もちろん俺もそのつもりだった。

ストレートではなかったら首を振っていた。


俺は大きく振りかぶり打者のインハイに投げた。


「おりゃっ!」


次の瞬間この世の物とは思えないような音が鳴った。

「バチッ!」


なんとグリップエンドの根元から真っ二つに折れたのだ。

その際の球速が158km 自己最速だ。


前代未聞の出来事で打者は突っ立っていた。


ボールはキャッチャーの目の前にあり、ファーストへと転送してアウトになった。



「「「おおおおおおーーーーーーーーーーーー」」」と観客は大歓声


後1アウトだ。けど油断してはいけない。

5番の小沼選手は強豪ぞろいの大阪予選で驚異の打率7割を記録していた。


サインはカーブ。まだ一回も投げていないからちょうどいいだろう。

けれど、打たれたら取り返しがつかないから気をつけなければならない。


ワインドアップから腕を振りかぶった。


ボールは打者の前でワンバウンドしてボールになった。

さすが怜。前で止めた。


次のサインはストレート。


俺は大きく振りかぶり投げた。


「バーン!」と響きアウトローギリギリ。

『ストライク!』


危なかった。ボール判定だったら不利になっていた。


次もストレート。やはり、ストレートが武器だと非常に便利だ。


大きく振りかぶり力強く投げた。


「カーン!」と大きな音がなり打球はファールゾーンへ。

一歩間違えたらヒットになっていた。


カウントは1ボール2ストライク。

サインはやはりストレートだった。

おそらく、外れたら次はスプリットだろう。けど、ここで俺は抑える。


ワインドアップから大きく振りかぶった。

「あーーーーーーー」と絶叫に近い声が出たが関係ない。


「ブンッ!」と空振ったスイング音と「バーンッ!」とボールがミットに収まる音。

そして球速は自己最速 159km


『ストライク!バッターアウト!チェンジ」と審判のコール。


長谷田ベンチはガッツポーズをしている。相手チームは落胆の表情。


「しゃっーーーーー」俺は大声を出した。


観客も大盛り上がり。


「よくやった!」と監督から熱い抱擁。長谷田の監督は選手へのスキンシップが激しい。

コーチからもナイスピッチングと褒めていただいた。


「雅博!ありがとう!」と誠司

「おいおい、まだ礼を言うのは早いぞ。試合は終わってないんだから。あっ次は俺からか」

「打撃でも頼んだぞ」と誠司から言われたが返すのはこの言葉、


「任せておけ!!」と意気込みバッターズサークルに入った。


相手ももちろんエースだ。簡単に打ち崩せる投手ではない。

しかし、必ず打つと気合いを入れバッターボックスに入った。


「おっしゃーす」と気合いを入れ構えた。


相手ピッチャーが振りかぶるのと同時に左脚を少し上げた。

フォームは、元ロッテのサブロー選手のフォームを真似ている。


相手ピッチャーが投げた。すかさず俺はフルスイングをしたその瞬間!


「カキーン!」と強烈な音が響く。打球はいい角度で上がり、走り出すときには完璧に入ったと分かった。


レフトスタンド中段へのホームランだ。

スタンドは大盛り上がり。アルプススタンドは歓喜の声が響いた。


甲子園のダイヤモンドをホームランで一周するのはいつでも最高だ。

これで甲子園では10本目のホームランだ。


ベンチに帰り着くとチームメイトが大喜び!

「ナイスバッチ!!」と言われながらハイタッチ。


このホームランもあって、チームは波に乗り7回裏は一気に5点を取った。


俺も、8回9回ともに三者連続三振で試合を終わらせた。



この試合後、多くのメディア関係はこの夏で160kmが出るのかと注目されていたが結果は159kmが6回出ただけでやはり160kmは出なかった。

160kmはプロに入って1年目の目標だ。

ゆくゆくは人類最速の169kmを超えた170kmを出したい。


甲子園は優勝で終わり、Uー18でもノーヒットで抑えられた。


夏の甲子園でのストレート平均球速は156.6kmだった。


これを計測したのはとある人物だが、その話はまた今度。

けれど、これだけは言っておく。その人物のおかげで今の自分がいる。

俺が心から信用している人物の1人だ。

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