どこか童話的で、美しい言葉の響きを有した小説であると感じました。
特に、少年と過去の幻影の対比が素晴らしかったです。
生者でありながら空虚なアンドロイドの少年。対して、ホログラムであるというのに血の通った実在感を有した過去の記憶たち。
この世界はたしかに死んでしまったのでしょう。死を恐れることがない少年も、結局は死んだ世界の一部に過ぎないのでしょう。彼の中には死に対する恐怖が存在せず、故にそれと表裏一体の生という概念すらも明瞭には存在し得ないのですから。淡々と綴られる文体と、静寂の表現がそれを強く感じさせてくれました。
そのような世界の中、過去の世界の記憶は未だに生きている。生きた世界に存在した影法師として、この世界における唯一の「生きた」存在として、少年の目に映るシルエットとなり息づいている。
故に死んだ世界は単なる無味乾燥とした空間に留まらず、かつて生きていた世界としての美しさを有しているのでしょう。死の中の生。生の中の死。それを強く実感することができる、儚くも美しい小説でした。