プロの水準

 一見さらっと書いているように思えるが、当然ながら公式は全く水準が違う。私の作品を原付自転車とするなら、本作はF1仕様のスポーツカーだ。

 塩野七生氏は『ローマ人の物語(新潮社)』の中で、ジュリアス・シーザーは配下の軍団同士を混成させず、そのため兵士達は所属の軍団名を口にするだけで立派に名刺代わりになったと述べている。

 翻って本作では、主人公はある特別なクランの一員と説明されている。元来がクランとは氏族であり、大雑把には血縁と考えられる。そこへ加えて、既述した『名刺』も意識されているのがまず目を引いた。

 主人公はまだまだ半人前のようだが、まっすぐに己の道を踏みしめる姿が丁寧に描かれる一方で野食にいそしむくだりも楽しく読めた。少々気の毒な手合いもいるようだが。

 打って変わってベテラン冒険者のくだりは、テレビゲームで良くある設定をうまく落とし込んでいた。半人前主人公との対比の妙ですんなり入り込むことができる。

 続きを是非とも読みたくなる快作である。

 必読本作。