第5公 マツコ、病院へ

 嫁がマツコの異変に気付いたのは昨夜の事だ。マツコのお尻の部分に黒い『できもの』が二つ現れたのだ。失礼ながら、指で触ってみると少し硬い。


 ハムスターはガンになりやすい動物らしい。生まれて間もない子でもガンにはなる。俺らは、マツコの為に本を熟読したことで、このような知識を得た。


 幸いにも、マツコは、今のところよく食べて、よく遊ぶ。


 俺らの願望通りに、デラックスへの道を進んでいるようには思える。しかし、我が子のような存在であるマツコの体に異変が起きた以上、何もしないという選択肢はない。


「明日、病院に連れて行こうよ…」


 俺は勿論、妻の意見に賛成した。


 こうして、今、俺と嫁、それからマツコの3人で、近所の動物病院へとやって来た。周りは、ゴールデンレトリバー、柴犬、マンチカン、スコティッシュフォールドなど、犬猫界を代表する面々が揃っていた。


 それに対して、こちらはオカマ界代表のマツコである。


 決して負けてはいないとは思うが。


 しばらく、待合室で待たされたが、ついに俺らの愛しのモフモフ野郎の名前がアナウンスされた。


「マツコちゃーん!診察室までお願いしまーす!」


 俺らは、マツコが入ったハムスター用お出かけバッグを両手でしっかり抱え、診察室の中へ突入した。さあ、ドクターよ。俺のマツコをしっかり診てくれ。


「本日は…どうされましたかの?」


 小柄で白髪頭、かなりのご老人だ。彼にマツコの命を預けて大丈夫なのだろうか?


「先生!マツコのお尻に!気づいたら黒い『できもの』が!」


 嫁は、俺が抱えていたマツコ入りのお出かけバッグを取り上げると、その中からマツコをモフッと抱き上げた。


「どれどれ…デラックスちゃん、こっちにおいで…」


 覚束ない手つきでマツコを受け取るドクター。そして、しれっと名前を間違えるな。まあ、半分、当たっているが。


 ドクターは、マツコのお尻をジーっと凝視する。


『あらやだこの人!変態よ、変態!』


 と、言わんばかりの表情をしているマツコ。慣れない場所や臭いでおどおどしているようだ。


「あー、はいはい…分かりましたよ…」


 ドクターは、マツコのお尻の『できもの』を観て、一人で頷いている。


「先生!マツコは大丈夫なんでしょうか!?」


 嫁が不安そうに尋ねる。


「デラックスちゃんは…」


 マツコは…?


 頼む、ガンですとは言わないでくれ。


「立派な男の子です…」


「え?」


 俺と嫁は、予想外の返事にお互いの顔を見合わせる。


「これは、その…いわゆるですね…キンタマです…。あの…キンクマのキンタマです…。」


 何…だと?


「ハムスターはですね、大人になるのが早いんですよ…心配なされないでください。…デラックスちゃんは、元気ですよ…ほっほっほ…」


 そう、このような話は、俺ら家族だけじゃなく、ハムスターを初めて飼う人にはよくある話らしい。


 それにしても、マツコよ。お前は、オスだったのか。ますますマツコじゃないか。

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