第4公 おやつをあげよう

 俺らは、『ハムスターの飼い方』たる本を購入した。全ては、このマツコがすくすくと、デラックスに育ってもらうためだ。


 初めて知ったことだが、ハムスターと言えば、ひまわりの種ばかりを食べるイメージがあるが、与え過ぎは厳禁らしい。脂肪分が多いため、肥満の原因となる。マツコが二重アゴにでもなってしまえば大変だ。病気の原因にもなりかねない。


 しかし、適度な量であれば、おやつをあげるべきだ。そうすることで、飼い主との距離を縮めることができる。


 そういう事で、早速、嫁は、ハムスター専用のおやつを買ってきた。その名も、『ハームクーヘン』。人間様が食べるバームクーヘンのハムスターバージョンだ。形も、そのまんまミニサイズとなっただけで、違和感もない。最近のペットは、ちょっと贅沢じゃないか?


「ちょっと、毒味をしてみるね!」


 嫁がなんと、マツコに『ハームクーヘンをやる前に自ら口にしやがった。ゆっくり味わっている嫁。


「うん!これ、いけるよ!美味しいじゃん!」


 嫁は相当ご満悦の様子だった。人間様のお菓子にも、しばしばケチをつけているのに、ハムスターのおやつをすんなり受け入れやがった。


「マツコ!美味しいよ!食べてごらん!」


 マツコが寝ている『おうち』の前におやつを差し出す。まだ、来たばかりなのに、警戒しないのだろうか。だが、そんな心配を他所に、『おうち』の中に詰められた、お布団代わりのワタが、ごそごそと動き始めた。


「おー!」


 それだけで感動する俺と嫁。そして、ついにワタを掻き分けて、ピンク色した間抜けなお鼻が姿を現した。


「マツコ!おやつよ!食べてごらん!」


 マツコは、鼻をすくすくして、ハームクーヘンを臭う。やはり、警戒しているのか?いや、それよりも寝起きのマツコの目の細さが、また可愛い。寝ぼけてないだろうか?


「ほら、マツコ、お食べ!」


 すると、マツコに言葉が通じたのか、一口、ハームクーヘンを齧った。可愛い。段々と目が覚めてきたようで、まんまるの瞳が復活して来た。さらに、マツコは、前足でハームクーヘンをムニッと握ると、丸ごと口の中に押し込んだ。噂の頬袋と言う奴に収納したんだな。しかし、この豪快な食べっぷり、まるで本当にマツコじゃないか。


「食べたよ!」


 ぴょんぴょん跳ねて嫁が喜ぶ。マツコは、口の周りを小さな舌でペロッと舐めて、再び『おうち』の中へ、バックして戻っていった。きっと、誰もいない所で、ゆっくりと召し上がられるのであろう。


『あらやだ!何これ〜、最近のおやつってこんなに美味しいのね。』って、中で言っているのかもしれない。

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