第4話 白の彼女と灰色の僕

4-1


 七海に連れてこられたのは、昔ながらの喫茶店だった。


 俺たち以外には客はひとりも居ない。


 これからする会話の内容は人には聞かれたくないから正直助かる。

 俺は注文したリゾットを口に運びながら七海を見た。


「ゆっくり、よく噛んで食べてくださいね。ずっと何も食べてなかったんですよね?」

「まぁ……」


 そんなにがっついていたのだろうか。少し恥ずかしくなり、無言でスプーンを口に入れる。


「本当にありがとうございました。それに本当に良かった……祐也くん……あ、祐翔くんでしたっけ? お母さんは元気ってことですよね?」


 思わずむせそうになった。

 そこかよ!


「どこまでお人好しなんだ。だから騙されるんだよ」

「いいじゃないですか。私が騙されることでその人は幸せになれるんですから」

「呆れて物も言えないね」

「ふふ。私ね、全部知ってるんです」

「何を?」


 リゾットを半分平らげた所で水を飲んだ。


「貴方が復讐のために詐欺師になった事……って言ったら驚きます?」

「っ!」


 思わず水を吹き出した。


「な……!?」


 七海は涼しい顔をして汚れたテーブルをおしぼりで拭きながら続けた。


「もっと驚かせましょうか? 私は吉田克己の愛人の子なんです。貴方と同じ、吉田に騙された女の子どもなの」


 そう言って俺の片手に両手をそっと重ねた。


「私が詐欺師に騙され続けていれば、いつか吉田に繋がると思ったの。アイツの居場所は大体掴めてる。ね、手を組もう? 一緒に復讐して幸せになろう?」


 それから、彼女は鞄から1冊の本を取り出した。


 それは、灰色の表紙の本だった。





【了】

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白の彼女と灰色の僕 蒼月 彌砂 @MICKY09189

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