2-3
「結局失敗したし……」
アパートの部屋に入ると独りごちた。
瀬戸七海と会ったことで、幸せになれるどころか自分の不甲斐なさが浮き彫りになっただけだった。
「……やっぱ盗っときゃよかった」
あの金があれば少しはまともな食事が出来たというのに。空腹を知らせる音が虚しく部屋に響く。
やはり、俺には詐欺師なんて向いていないのだろうか。
このまま、あの老人の言う通り、なんの復讐もできずに野垂れ死ぬのか。
「……ハハ」
毛羽立った畳に寝転がりながら、片手で両目を覆って笑った。
あの日――あの火事で、俺も両親と一緒に逝きたかった。
父が経営していた小さな町工場。
従業員のおじさん達は、俺が小さい頃から仕事の合間に遊んでくれたりする良い人ばかりだった。
それに、技術もピカイチだった。大手電機メーカーの主力商品の心臓部などの部品も多く手掛けていて、皆誇りを持って働いていた。
だが、時代と共に大量生産が主流になった。技術よりも量を重んじるようになり、経営は悪化。
銀行からの融資は打ち切られた。
ある日、吉田という人物が融資を申し出てきた。
当然、父は家族と従業員の為に話に乗ってしまった。
それが、詐欺だとも知らずに――
結局、保険料だの保証金だのを取るだけ取られて、最後はやはり信用が得られなかったので融資は出来ないと切り捨てられた。
――そんな……! 話が違うじゃないですか! 家族は……従業員はどうなるんです!
父の悲痛な叫びが、14年経った今でも昨日の事のように脳裏に過る。
そして、最後の夜に食べたオムライス。
「…………っ」
俺は歯を食いしばり、涙を流した。
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