第3話 再開と真実

3-1


 人間は少しくらい食べなくても生きていられるらしい。

 公園の水飲み場で凍りつきそうな程冷えた水で胃の中をいっぱいにすると、フラフラと歩く。

 いい加減副業でもしないと本気でヤバい。


「……あの、もしかしてこの間の方じゃないですか?」


 聞き覚えのある声にゆっくりと振り向くと、そこには七海が立っていた。


「瀬戸……七海……?」


 思わずそう言ってしまってから慌てて片手で口を塞いだ。


「え? なんで私の名前……」


 俺は焦って何か名前が書いてあるものはないかと、七海の全身にくまなく視線を這わせた。


「それ。名札」


 俺が七海の左胸を指差すと七海は驚いた顔をし、それから恥ずかしそうに慌てて名札を外した。


「やだ! 外し忘れてたんだ!」


 外し忘れてくれてて助かった。


「良かった。また会えないかなって思ってたんです」


 七海の言葉にドキリとした。


「なんで?」

「だって、お金渡せてなかったから……」

「あー……」


 こんなガキ相手に何を考えたんだ。

 それより、こんな偶然を無駄にすることはない。今度こそ金を……


 その時、公園に誰かが入ってくるのが見えた。その人物には見覚えがあった。


「ごめん、会いたくないヤツが来たからちょっとこっちに……」

「え? あの……」


 俺は七海の手を引いて公衆トイレがある方へ向かった。

 建物の壁に背を預けると、そのまま座り込む。七海に手招きをすると、七海はキョトンとしたまま俺の隣に座り込んだ。


「あの……」

「しっ!」


 俺たちのいる場所から数メートル先のベンチへそいつは腰を下ろした。

 幸い植木で俺たちの姿は見えない。


 すると、暫くしてもう1人やってきた。


「祐也くん!」


 祐也?

 俺の知っているヤツの名前は確か“祐翔”だったはず。


 詐欺師がカモに本名なんて教えるはずがないから、あの女はヤツのカモという事だ。


「お母さん大丈夫? 10万円持ってきたよ。足りる?」

「ごめん……彼女にこんなこと頼むなんて情けないけど……」

「ううん! それより早く病院へ連れていってあげて!」

「恩に着るよ。また連絡する」


 このやり取り……何処かで……


 そう思い、ふと七海を見ると彼女は両手で口を覆い、カタカタと小刻みに震えていた。


「……祐也……くん……」


 そうだ。なんで気づかなかったんだ。

 七海を騙した張本人じゃないか!

 何故この公園に七海が居たのか、この瞬間理解した。


 気づけば俺は立ち上がり、祐翔の前へ躍り出ていた。


「祐翔!」

「は? 真? お前なんでこんなところに……」


 裕翔は俺が出てきた方向に視線を向けて、絶句した。


「七海……?」


 そして、次の瞬間腹をかかえて笑い出した。

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