【おまけ】お、おのれ…

「……で、結局、昨日はどこにいたのだ」


 イルヴァたんは足をばたばたさせながら、さっきまで着ていたワンピースに羽が出せるような加工を施している。とりあえず羽はそのままということになり、吾輩は安堵した。い、いや、性癖がどうとかじゃないからな!


「材料集めに行ってたの」

「材料?」

「そ。とりあえず1体出来たからさ、量産しようと思って」

「量産するのか、これを」

「そ」

「一応形にはなってるが、それでもこれは失敗作なのだろう?」

「そうだけど」

「失敗したらまた跳ね返ってくるのではないか? 今度は羽だけではすまんぞ」

「だよねー、あははー」

「あははって!」


 まったくイルヴァたんは危機感が無さすぎる。

 しかし動機が吾輩の応援部隊なのだ。この『我が身を削って他者を助ける』というのがやはり元勇者たる所以なのだろう。まぁ、物理的に削られてる(剥がされてる)のは吾輩でもあるわけだが。


「ねぇやっぱりあたしが魔物になったら、嫌? 見た目がぐわーっと変わったらさ」

「いや、その辺の結論についてはもう出ておる」

「は? 何のこと?」

「いやいやこっちのことだ。何にせよ、吾輩はイルヴァたんがどんな姿になろうとも問題はない」

「ほぇ~、そうなん。器ひれぇなぁ」

「それから、だな。その……吾輩はもっとイルヴァたんのことを知りたいと思う」

「あたしのこと?」

「うむ。子どもの数もそうだが、吾輩はあまりにも知らな過ぎた。今回のことで痛感した。産まれた時や、育った村のこと。それから家族との思い出。それから、好きな色に、幼い頃の夢。あとはそうだな、欲しいものとか。どこか行きたいところはないか? 吾輩にしてほしいこととか」

「うーん、そうだなぁ。とりあえずお腹空いたかな。いつもの食べたい」

「良し来た。任せろ」

「あとはさ、やっぱ子どもは欲しいかな」

「そうだなぁ。うむ、確かに」

「千里の道も一歩からっていうし、善は急げともいうし。よっしゃ、ご飯食べたらちゃっちゃと作ろう!」

「うむ」

「えいえいおー!」

「えい……? 何だそれは」

「良いから良いから。はい、えいえいおー! ご一緒に!」

「え……、えいえいおー!」



 かくして、いつものサンドイッチで腹を満たした吾輩達は、いざ! と再びベッドの上である。

 さて――、


「なぁ、イルヴァたんよ。ひとつ確認したいのだが」

「何かね、アレックス君」


 先生口調が何だか懐かしい。


「とりあえず、体格を人間イルヴァたんに合わせたわけだが」

「そうだね。対勇者用のだと体格差がおかしいからね。当然だね」

「うむ。まぁそれは良いとして、なんだが」

「うん、あのね。たぶんだけど、あたし、アレックスが何言いたいのかわかる気がする」

「何と。それはさすが我が妻」

「うん、何ていうかさぁ……、あれでしょ? いや、まぁ言い出しっぺはあたしなんだけどさぁ」

「うむ」


 2人の間にしばしの沈黙が流れた。

 

「そもそも子どもって、どうやって作るのだ?」

「それな」


 そう、吾輩は、というか、イルヴァたんもなのだが、子どもの作り方というのを知らなかったのである。とりあえず素っ裸になる必要がある、と言って、イルヴァたんは服を脱いだ。吾輩? いや、吾輩は基本的に裸にマントだから。


 聞く? これはエキドナに聞いた方が良い? あいつ馬鹿にしないかな? いや~、するな、絶対する。


「えぇ~、魔王様、知らないんですかぁ~?」


 って、あのクソ腹立つ顔で絶対言う!


「とりあえず、一度調べてからにしよっか」

「そうだな。そう急くこともあるまい」


 そう、吾輩もイルヴァたんもまだまだ若いのである。まずは知識を仕入れてからでも遅くはないはずだ。


「そうそう、何事も予習が大事ですよ」

「だよねー」

「うむ、その通りだ」


 ――――!?


「エキドナ! 貴様またしても!」

「仕方ないですよね、この部屋のセキュリティが雑魚すぎるんですよ」

「おい、誰か新しい鍵を買って来い!」

「ドナっちゃん良いとこに来たー。ドナっちゃん教えてよ」

「あらあらうふふ、ビョルクったら。何か着なさいよ、目の毒なんだからもぅ。後で2人きりでね」

「わーい」

「ちょっと待て。吾輩は除け者か」

「わたくしは女なんですから、男側が何をどうするかなんて説明出来ませんよ。ていうか、それセクハラですからね」

「そ、それを言われると……」


 最近じゃ魔王城ココでもセクハラだパワハラだとうるさいのである。有休や育休など人間の制度で良いと思うものはこちらでもどんどん取り入れてきたのだが、まさかこんなものまで入って来るとは。


「ビョルクにリードされるのが恥ずかしいって思うんなら、必死に勉強なさってくださいね、魔王(童貞)様、ぷふっ」

「いま何か馬鹿にする感じの含めたろ!」

「いえ~? べっつにぃ~? さ、行きましょうか、ビョルク」

「うぐぐ……、お、おのれエキドナ!」



 それから数時間後、吾輩は「あの時どんな手を使ってでもエキドナに聞こうとしなくて本当に良かった」と胸を撫で下ろすのであった。



 

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【長編仕様】レベル1の勇者が乗り込んできたんだが。 宇部 松清 @NiKaNa_DaDa

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