それはホロリと零れるきれいな涙じゃない。目の奥にじわりと滲む、奥歯を噛みしめるような泪です。心をぎゅうっと縛られる、幼い頃のやるせない記憶。それでも必死で毎日を生きてきた健気さ。青春の苦い過去。
つらい話が多い。でも、読了後の気持ちがこんなに清々しいのは、色んなことを踏み越えてきた大人の視線で語られるから。その視線は、弱さも悔しさも悲しさも、全部包み込んで、それでも大丈夫だと励ましてくれるようです。
迷った時、苦しくなった時、逃げたくなった時、このエッセイが助けてくれることでしょう。
そして、やるせない苦い泪は、きっとあたたかい涙に変わっていることでしょう。
こちらの作者の星都ハナスさんと言えば、私の中で1番に思い浮かぶ作品は「ハダカデバネズミの幸年期」というエッセイでした。
他の作品も勿論素敵なのですが、ご本人のお人柄がよく出ている楽しくて素敵な「ハダカデバネズミの幸年期」。
でも、それは「もぐらの泪」があったからこそだったのです。
私の勝手な気持ちとしては「ハダカデバネズミの幸年期」と「もぐらの泪」は対になっている作品だと思っています。
まるで、光と影のような。
その影の部分がこちらの「もぐらの泪」なのですが、こちらを読んで私は作者さんのことがもっと大好きになりました。
色んな経験や思いがあったからこそ、作者さんのポジティブな言葉はすんなりと心に入ってきていたのだなぁとしみじみ感じたのです。
なので「もぐらの泪」と「ハダカデバネズミの幸年期」。両方読むことで分かることが沢山あると思います。
どちらも毎日に感謝をしたくなる様な作品です。
毒があるからと、作者に読むのを止められたエッセイです。
忠告を聞かずに読んでしまいました。
確かに、ここで語られるのは作者ご自身のつらい経験の数々。私にはまるでドラマのように感じられる内容でした。
それなのに、嫌な読後感がないのは何故でしょうか。
恐らく、作品全体を、そして読者をも温かく包み込んでくれるような、ご本人のお人柄を感じることができるからです。
愛のない経験を繰り返し受けながらも、愛を求め、また与えることを忘れなかったことが、読んでいて何度も伝わってきます。
こんな大人になりたいと、(私ももう十分に大人ですが)憧れに似た気持ちで読了しました。
時にユーモアも交え、文章を通して伝わってくる作者の温かさは、このエッセイからも、他の作品でも感じることができます。
少し疲れたとき、心洗われたい時に、立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
短歌のようなウタから始まるエッセイ集。この形式の作品は初めて拝読した。
作者様の幼少期の闇。辛いこと。本当に胸に刺さる。それを客観的にウタに乗せることは、とても難しいことだと思う。この作品には、思わず目を覆いたくなるものや事、耳をふさぎたくなる言葉がある。作者様はご自分をもぐらに重ねて、書き連ねている。
子供だから感じること。
子供の持つ残酷さ。
成長しても変わらないこと。
心の陰の部分を嘘偽りなく書かなければ、ここまで他人に伝わらない。
拝読していて心が、痛かった。
しかし最後のエッセイで、光が見えた気がした。
絶望がある。 希望がある。
人並みに生きる。それが一番難しくても。
是非、ご一読ください。