SFが教えてくれるものがあります

SFと言うと小難しい印象を受けて、敬遠してしまう人もいるかもしれません。実際、ハードSFの一部には超高校級レベルの予備知識がないと理解ができない作品もあります。ただ、本作においては、専門的なものもありながらも可読性が保たれているどころか高いレベルを維持できるというのは、ひとえに作者の文章力が秀でているお陰でしょう。

さて、SF小説では、現実にはない架空の技術などが登場し、社会が様変わりした姿が頻繁に描かれています。けれども、SFのエッセンスとは架空技術の素晴らしさではありません。その技術によって人がどう感じ、社会がどう変わるかです。良いSF小説とは、現実にない道具立てを使うことによって、全く新しい角度から人間というものを浮き彫りにしてくれるものなのです。そのような作品は間違いなく読み手の情動に響き、永く記憶に刻まれるものとなるのです。

そして本作は間違いなく、その条件を満たしている作品と言えるでしょう。現実の科学と架空の科学の境界線は融けて見えなくなり、それら科学はすべて人と、社会と繋がっています。そんな本作を読んでいると、ときに本作のジャンルがSFであることを忘れそうになります。だからこそ読み手は登場人物の考えに寄り添い、心情に共感し、作者が描こうとした人間というものイメージを鮮明に受け取ることが出来るのです。そして、読み終えた後に胸に吹き込む優しい風は、あなたの涙を拭ってくれることでしょう。

SFを敬遠することなかれ。SF好きの人はもちろん、SFは苦手という人にも、本作は等しく新しい風を教えてくれるものなのです。

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