唯一無二のカタルシス

 杖を振れば、呪文を唱えれば、強力な魔法で敵を一発粉砕?

 本作は違います。一分に一度しか撃てない微弱な魔法弾。属性はあるも効果のない属性。魔法弾の上限だって十数発。とても倒すべき「影の王」には遠く及ばない弱さ。どうやって倒すんだという状態から本編は始まります。

 そこからの過程が本作で一番エキサイティングなところでしょう。誰も目をつけない文献に記された技術にヒントを得、強力な魔法を打ち出すための方策を練っていくアキム。失敗、確執、離別――様々な困難が彼を襲いながらも、それでも立ち上がる姿勢に、ページをめくる手は止まらなくなっていきます。

 やがて迎えた最終決戦。知恵と技術を総動員し、練り上げられた驚天動地の布陣、戦術の数々。そしてそれを支える人々の調和と熱意。人の力だけではなしえず、技術の力だけでもなしえず、その融合が生み出す力は、人の力を、可能性を胸に刻み込んでくれることでしょう。

 ただのSFでも、ただのファンタジーでも、ただの技術書でもあらず。それらの融合と練り上げられた人間ドラマが生み出すカタルシスは、この作品でしか味わえない唯一無二のものなのです。

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