第一章 学園祭準備(2)
***
学園祭で執事&メイド喫茶をすることが決定した後は、通常の授業が行われ、昼休み。
いつも通り亮たちと食堂で食事をしていると、亮がとある提案をしてきた。
「なあ、バンドやらねぇか?」
「バンド?」
「も、もしかして、学園祭で?」
俺が首を
「ああ。優夜は知らないかもしれないけど、学園祭での出し物はクラスだけじゃなくて、生徒同士のグループでもできるんだ。中には部活単位で参加してるところもあるぞ」
「ぼ、僕のゲーム部は、毎年おすすめのゲームをまとめた本とか、オリジナルゲームを販売したりしてるよ」
「そんなマーケットみたいなこともしてるの!?」
まさかそこまでできるとは思ってもいなかった。これ、高校生の学園祭というより、大学とかの学園祭が近いんじゃないか?
「っていうか、慎吾君、オリジナルゲームなんて作れるんだね!」
「ま、まあ本当に簡単なものだけどね」
「おいおい、そんな謙遜すんなよ! 去年も買わせてもらったけど、アレめちゃくちゃ面白かったぞ!」
「そ、そうかな? ありがとう」
亮の言葉に照れ臭そうに笑う慎吾君。
すごいな……俺も慎吾君が作ったゲームやってみたいけど、もし何か機械が必要なら買わないとなぁ。
「っと……話が
「なるほど……でも俺、楽器なんてできないよ?」
「ぼ、僕も……」
「そんなのいいんだよ! 俺もできねーし」
「あ、亮もできないのね!?」
てっきりこんな提案をしてくるくらいだから、亮は何らかの楽器が演奏できるのかと思っていたが、違うらしい。
すると、亮は楽しそうに笑う。
「下手くそかもしれないけど、こういう機会だからこそ、やってみるのもいいんじゃねぇか? 何事も経験だって!」
「経験か……」
この学校に入る時、理事長の
ふとその時のことを思い返しつつ、不意に慎吾君と目が合うと、お互いに笑った。
「そう、だね……興味はあるかも」
「ぼ、僕も! 正直、ダメダメかもしれないけど……やってみたいかな」
「それじゃ決まりだな! 楽器は持ってるなら自前でもいいし、なくてもステージに出るなら学校が貸してくれるはずだからよ。もし大丈夫なら今日から練習しようぜ!」
こうして俺は、学園祭で亮たちとバンドを組むことになるのだった。
そこでふと、俺はあることを思いだす。
「そういえば、学園祭には毎年有名なアーティストが来るんだよね? 今年は誰が来るの?」
「そ、それは、当日になるまで分からないんだ」
「そうそう! そのアーティストが誰なのか、予想するのも楽しいよなー」
なるほど……俺はアーティストに限らず、芸能系には
ひとまず、学園祭の準備を頑張ろう!
***
「うーん……いざバンドを組むことになったけど……大丈夫かなぁ」
「わふ?」
亮の誘いでバンドを組むことになった俺は、少しでも体が
ただ、そこまで本格的に探索するつもりはないので、一緒にいるのはナイトだけだ。
「まだどんな曲を演奏するかも決まってないからなぁ……」
まあ俺はそれ以前に音楽の経験がないわけだが……。
それこそ俺の音楽の経験なんて、学校の授業の程度だ。知ってる曲もほとんどない。
「やるからにはしっかり練習しないとな」
俺が下手で笑われるのはいいが、それで亮たちに迷惑が掛かるのだけは嫌だからな。
「! わふ」
「そういえば、ボーカルは誰がやるんだろう? まあ俺ってことはないだろうけど……。よくよく考えれば授業で合唱の経験はあっても、一人で歌ったことってなかったな……実際、俺って歌えるのか?」
合唱は皆で歌うので、正直俺の歌の上手さがどうとか、まったく分からない。
それこそ飛びぬけて
つまり、俺が音痴なのかどうかさえ不明なのだ。
「わふ!」
「特に授業で怒られたことはないから、極端に音痴ってことはないだろうけど……実際、どうなんだろう?」
そんなことを考えながら、俺は知っている曲をふと口ずさむ。
それは、森の中で熊に出会うという内容の歌だった。
「~♪」
「ウォン!」
「グルゥ?」
「へ?」
歌についてあれこれ考えながら歩いていると、ナイトが強く
その声でようやく正気に返った俺だったが……目の前にはデビルベアーの姿が。
「「……」」
見つめ合う俺たち。
そして――――。
「グオオオオオオオオオ!」
「うわあああああ!?」
「わふぅ……」
熊が出てくる歌を唄ってたら、本当に熊と遭遇したよ!
完全に考えることに没頭して、デビルベアーに気づかなかった俺のことを、隣でナイトが何とも言えない表情で見上げていた。め、面目ない……。
とにかくこの状況を脱しないといけないので、俺はすぐさま【
そして――――。
「ガアアアアアア!」
勢いよく突っ込んでくるデビルベアーを冷静に見つめ、俺は賢者さんの教えを思い出しながら剣を振り下ろした。
俺が剣を振り下ろす直前、危険を察知したデビルベアーは避けようとしたものの、俺の攻撃の方が一段速く、そのまま一刀両断されると、デビルベアーはドロップアイテムを落として消えていった。
「ふぅ……あ、危なかった……」
「わふ。わん」
ナイトは気を付けてと言わんばかりに俺の足を
「ご、ごめん。こんな考え事しながらは危ないよな」
「わん!」
最近は賢者さんや
俺はそんな余裕を持てるほど強いわけでもないのに、強くなった気でいたのだ。
これは気を付けないとな……。
ドロップアイテムを回収していた俺は、そこでふとあることを思いだした。
「今回は手に入らなかったけど、前にデビルベアーと戦った時は【炎のギター】ってアイテムを手に入れたんだっけ。もしかしたら、あれ、使えるのかなぁ?」
まだ何をするかも具体的なことは決まっていなかったが、楽器を使うとなれば【炎のギター】を使う可能性が出てくるかもしれない。ただ、異世界のアイテムなので、地球のアンプに
デビルベアーのドロップアイテムを回収し終えた俺は、気合を入れ直す意味で頬を叩いた。
「さてと……ごめん、ナイト。もう油断しないよ」
「わふ」
ナイトは満足げに
……こうしてナイトを見ていると、ますます自分が
ナイトは油断せず周りを見渡しているのに、俺ときたら……。
反省は後にして、俺も警戒しながら探索を再開した。
さっきまでは考え事に集中しすぎて気づかなかったが、デビルベアーとも遭遇したように、大魔境の生態系も徐々に戻り始めているようだ。
アヴィスの攻撃で消し飛んだ大魔境だったが、やはりそこで暮らす魔物たちの生命力は桁違いだな。
「ん?」
周囲を警戒しながら進んでいると、今まで大魔境で感じたことのない気配を察知した。
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