第二章 レベルアップの恩恵(1)

 その日の晩、精神的に疲れていた俺はすぐにねむりにくことができたのだが、突然体に感を感じ、目が覚める。

「……ん? 何だ……?」

 体中が熱を持ったように熱いのだ。

 原因不明の体の違和感に首をひねっていると、急に俺の体を激痛がおそった。

「がっ!? がああああああああああああああああああああああああっ!」

 すさまじい痛みに、俺はぜつきようする。

 一部分だけが痛いとかではなく、全身が痛いのだ。

 それも、体中から変な音が鳴りひびき、まるで全身の骨格や筋肉、神経が作り変えられてるような……いやそれどころか、で作り変えられてるような痛みが、ずっと続いているのだ。

 自分でも何を言ってるのかよく分からないが、本能的な部分がその認識で正しいと告げている。

「うっ、がっ、あが……」

 口やのどにも異変は現れ、まともにしゃべることすらできなくなった。

「あ────」

 あまりの痛さに、俺はついに意識を失った。


    ***


「ん……ん?」

 翌朝。

 目が覚めると、俺の体は昨晩の痛みがウソのように消えており、それどころか非常に体が軽かった。

「昨晩のは一体何だったんだ……」

 激痛の原因が分からず、俺は首を捻るばかりだったが、おなかもすいているため、朝食を作るために起き上がった。

「…………え?」

 そのしゆんかん、俺の穿いていたズボンもパンツも、下にずり落ちた。

 しかも、そのまま俺の目に飛び込んできたのは、れいに六つに割れた腹筋と、じんじようじゃないほど立派な自分のいん。で、デケェ……。

 思わずその腹筋をさわってみると、自分で自分のおなかを触っている感覚があるため、俺の体でちがいなかった。

 …………。

「はああああああああああああああああああああ!?」

 ナンダコレ!? これ本当に俺の体か!?

 何度も何度も自分の腹をでまわすが、俺の体に違いなく、他の部分……顔や頭を触ってみると、ニキビなどのデキ物は綺麗になくなっており、かみの毛もフサフサだった。

 次々と明らかになる自分の体の変化に俺は呆然としていたが、お腹が鳴ったため、取りあえず朝食を作ることにした。

 台所への移動の際も、自分の視線の高さが違うことに気づき、再び立ち止まりそうになったが、何とかみとどまって、調理を始めることができた。

 ただ、朝食ができた後は正直呆然としたまま食事をしていたため、味などまったく分からなかった。

 食事を終え一息つくと、改めて自分の体に起こった変化について考える。

 ……どう考えても、昨日のレベルアップってやつが原因だよなぁ……。

 冷静になったことで、レベルアップをしたことを思い出した俺は、すぐにそれが原因だと思った。それ以外、こんなじようきようになる要素がないからな。

 昨日の時点でレベルアップの変化が現れず、夜ている間に起こったのは、いわゆる成長する過程と一緒なんじゃないか? それにしては劇的に変わりすぎなわけだが。

「鏡でもあればいいんだけど……」

 見た目を確認しようと鏡を探したのだが、そう言えば昨日俺がヤケクソになってこわしたのを思い出し、家の中に鏡がないことに気づいたのだ。

 ただ、見た目がどう変わったか確認できずとも、今のところ何の支障もない。もともとひどかったんだし、それ以上どう変わろうがどうでもいい。俺にはどうしようもないしな。

 今はそんなこと以上に深刻な問題に直面している。

 それは……。

「着られる服がない……」

 そう、俺の体のサイズに合う服がないのだ。

 上着はぶかぶかでも着ようと思えば着ることはできるが、ズボンやパンツだけはどうしようもなかった。

 ぶかぶかすぎて、どうがんってもズリ落ちるのだ。

 今までベルトというものをしたことがないため、こしに固定する手段がない。いや、最終手段として何かひもみたいなもので固定すれば何とかなるかもしれないが……。

 どっちみち、この状況が続くのは困る。非常に困る。

 今の体のサイズに合う服を買いにも行けないし、食料を買いに行くこともできない。

 そうだ、制服もこの体型じゃ着ることはできないだろう。

 めずらしいことに、高校の制服は中学と同じであり、毎年配られる名札の色で見分けている。そのため、中学の制服を着るとなると、今の俺には確実にサイズが合っていないのだ。

「本当にどうすればいいんだ……」

 本格的になやみ始めた俺だが、あることを思い出した。

「あ。そう言えば、あの家のクローゼットに、何着か服とか入ってたよな……?」

 異世界のクローゼットの中には、あの時の俺には着ることができないサイズの服と下着が何着か入っていたのだ。

「取りあえず、それを着てみるか……」

 現状他に当てがないので、俺はすぐにとびらをくぐり、異世界の家の中に入ると、クローゼットを開けた。

 するとやはり何着かの服と下着が置いてある。

 見た目も白色のワイシャツと黒色のズボンで、シンプルだが地球でも見かけるタイプのモノだった。

「助かった……取りあえず、着れるよな?」

 特に意味もないが、何となく鑑定してみる。

【ロイヤルシルクのシャツ】……ロイヤルシルクで作られたシャツ。非常にはだざわりがよく、シルク製品のさいこうほうの気品を持つ。装着者の体型に合わせて自動で大きさを調整する。装着者の体温を常に適温に保つ。よごれない。自動修復機能がされている。けいやくしやてんじようゆう

【ロイヤルシルクのズボン】……ロイヤルシルクで作られたズボン。非常に肌触りがよく、シルク製品の最高峰の気品を持つ。装着者の体型に合わせて自動で大きさを調整する。装着者の体温を常に適温に保つ。汚れない。自動修復機能が付与されている。契約者:天上優夜。

「ウソだろ」

 何だよこのぶっ壊れ性能。服が持つ性能じゃねぇ。

 しかも、最初にこれを見つけたときはまだ太ってたわけだけど、その状態で着ようと思えば着れたのかよ。

 さらに寒かろうが暑かろうが、これを着てればずっと快適な状態で過ごせるわけだろ? 本当に意味分からねぇ。

 それに、とってつけたような汚れないっていう説明……これ、世の主婦が見たら大喜びな効果じゃないか?

 あと、説明文を読んだからというわけじゃないが、確かにこの白いワイシャツと黒色のズボンは、みような気品がただよってる気がする。本当に気がするだけだが。俺にしんがんなんてものはない。

 んなことより、服ですら契約者あつかいされるってどうなのよ? この世界ではこれがつうなの? 絶対違うよね? そう信じてる。

 服がこの性能なら、下着はどうだ? と思い、下着にも鑑定をかけたが、下着はメチャクチャごこのいい下着というだけで、それ以外に特に効果みたいなものはなかった。

 ただし、例にたがわず契約者とやらになっていたがな。

 ちなみに、下着は黒色の肌着に同じく黒色のボクサーパンツだ。

「本当にいたれりくせりの対応だな……」

 いや、けんじやさんもこんな風に活用されてるとは思わないだろうけど、実際俺は非常に助けられている。

 他にも、クローゼットの中を探したら、くつと靴下も出てきた。

 靴下は穿き心地がよく、れないという効果と、契約者が俺ということ以外なかったが、黒地に金色のワンポイントが入った靴下は非常にカッコいい。

 そして、靴の方はさらにぶっ飛んでいた。

りゆうじんかわぐつ】……龍種の頂点である、龍神の皮で作られた靴。地形によるえいきようを無効化する。装着者はどれだけ歩いても走っても、つかれることもくつれすることもない。装着者のサイズに合わせて、大きさが変化する。汚れない。契約者:天上優夜。

 とうとう神様が素材化された装備品が出てきた。

 ナニコレ、本当にどうすればいいわけ? 当たり前のように契約者は俺だしさ。いや、ありがたいけど。

 それでも手に余るよね? 普通の靴の領分をえちゃってるよね?

 だが、この靴もつやのある青みがかった黒色で、非常にカッコいいのだ。こんなのきたくなるだろ。

 まあ、実際足のサイズも変わっていたから、これを履くわけだけどな。

 取りあえず、俺は服や靴などを手に入れ、これで外出するすべを手に入れたのだった。

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