第一章 異世界へ(4)

 れ、レベルアップ……?

 俺はとうとつに表示されたメッセージに、呆然とする。

 ……いや、冷静に考えれば、それもそうか。

 なんせ、レベル1がレベル300を倒したわけだからな。

 今さらだが、攻撃力1なのに、これだけレベル差のある相手を倒せたのは、【絶槍】のの攻撃力が高すぎたせいだろう。

「……【絶槍】ヤバすぎだろ」

 しかも、【絶槍】クラスが大量にまだ手元にあるのだ。これ、全部使いこなせるようになったらヤバいよな……。

 それより、レベルアップしたって言うけど、何が変わったんだろうか?

 俺はステータスを表示して、へんこう点を確認した。


【天上優夜】

職業:なし、レベル:100、魔力:1000、攻撃力:1000、防御力:1000、俊敏力:1000、知力:1000、運:1000、BP:10000

スキル:《かんてい》《にんたい》《アイテムボックス》《言語理解》《真武術:1》。

しようごう:《とびらの主》《家のあるじ》《異世界人》《初めて異世界をおとずれた者》


「いやいやいやいや」

 上がりすぎだろ。

 ……でも相手はレベル300だったわけだし、こんなものなのか……?

 それに、レベルがひとつ上がるごとにステータスは10上がるんだな。これが多いのか、それとも全員同じなのかは分からないが。

 だとしても、このBPが他の人より異常に多いのはさすがに分かる。【初めて異世界を訪れた者】の効果なのは知ってるが。

「このBPってのを、自由に振り分けられるんだよな……」

 今すぐ振り分けてもいいんだが、それよりもブラッディ・オーガが倒れた場所に、何かが散らばっているのが気になる。先にそっちを見に行こう。

 いまだにふるえる足に力をめて、おぼつかない足取りで目的の場所まで辿たどり着いた。

「……何だ?」

 その場所に落ちていたのは、手のひらサイズの不思議な色合いの宝石みたいなものと、ブラッディ・オーガの口から生えていたのと同じような、立派なきば。そして赤黒くてまがまがしくもカッコいい、いくつかのよろいだった。

「……取りあえず、回収しよう」

 敷地の入り口付近で倒したおかげで、回収はばやく行うことができた。

 回収したアイテムは、数こそ多くはないが、何とも言えないりよく? あつ? とにかく、素人しろうとに見ても、すごい物だということが分かるものだった。

 ただ、こうしていくらながめていても俺には何も分からないので、素直にスキル【鑑定】を発動させた。……なんかナチュラルにスキルを発動するようになってきたな。

けつせんたい】……ブラッディ・オーガの牙。その牙は見かけだおしではなく、ブラッディ・オーガのこうごう力と合わさり、あらゆるもの容易たやすく貫く。加工すれば、がんじようするどい武器を作ることもできる。

せき:B】……ランクB。魔力を持つ魔物から入手できるとくしゆな鉱石。ランクは下から順にF、E、D、C、B、A、Sとあり、ランクが上がるほど高価。

【血戦鬼のどうよろい】……ブラッディ・オーガのドロップアイテム。きようじんなブラッディ・オーガのきんせんと皮膚でできている。なみたいていの筋力ではこの鎧に傷をつけることはできない。装備者のこうげき力に補正がかかる。

【血戦鬼の】……ブラッディ・オーガのドロップアイテム。強靭なブラッディ・オーガの筋繊維と皮膚でできている。並大抵の筋力ではこの籠手に傷をつけることはできない。装備者の攻撃力に補正がかかる。

【血戦鬼のこしよろい】……ブラッディ・オーガのドロップアイテム。強靭なブラッディ・オーガの筋繊維と皮膚でできている。並大抵の筋力ではこの鎧に傷をつけることはできない。装備者のしゆんびん力に補正がかかる。

【血戦鬼のきやつこう】……ブラッディ・オーガのドロップアイテム。強靭なブラッディ・オーガの筋繊維と皮膚でできている。並大抵の筋力ではこの脚甲に傷をつけることはできない。装備者の俊敏力に補正がかかる。

 ファンタジーまんさいのアイテムだった。

 魔石や牙って……いつぱんじんの俺がどこで使うの? いや、鎧も現代の地球じゃ使わないけどさ。

 そもそも使い道が分からねぇよ。武器は間に合ってるし、魔石に至ってはアルファベットがランクとやらを示していることぐらいしか分からない。

 しかも鎧のサイズは太ってる俺には合っておらず、装備することができないのだ。本当にどこで使うの?

 とはいえ、ブラッディ・オーガの腹筋のような見た目の胴鎧と、全体的にどこかとげとげしい籠手。腰鎧は胴鎧や籠手と同じような鋭さを感じさせ、それに赤色のマントがつけられており、脚甲は籠手のデザインをあしの部分に合わせて調整した感じでとてもカッコいい。

「せっかく回収したけど……使い道が分からないんじゃなぁ」

 なんだか、BPを割り振るのを後回しにするほどのことでもなかったかも。

 そう思いながら、俺は今度こそBPを振り分けることにした。

「んー……振り分けるにしても、ほうなんて使えないし、どうせなら攻撃力とか上げたいよなぁ」

 俺は元々ゲームとかでは、攻撃力をひたすら上げてなぐるスタイルが好きなのだ。まあゲームなんてらく用品持ってないから、もうそうでだけどな!

 ともかく、使えもしない魔力に振り分けるのもあれだし、何よりいじめられ続けてる俺からすると、ぼうぎよ力とかを上げた方がいいかもしれないな。

「……でも、この運ってのもなぁ……」

 本来、運っていうのは、どれだけがんっても、筋力などとちがって、簡単に上がるわけないのだ。いや、レベルアップしたら同じだけじようしようしたけどさ。

 そう考えると、運に振り分けるのもアリだよなぁ。

「……ヤバイ、楽しくなってきたぞ」

 そもそも、ゲームをあまりしたことがない俺からすると、このじようきようは一つの娯楽みたいになりつつあった。もちろん、あの殺気に当てられたりとこわい目にもったが、それでもこの不思議な状況は魅力的だった。

 まあ、レベルが上がって、攻撃力やらが上昇してるけど、特に変わった様子もないし、あまり気にせず、それこそゲーム感覚で選んでもいいだろう。

 楽観的に考えた俺は、思うままに、BPをり分けてみた。

 その結果……。


【天上優夜】

職業:なし、レベル:100、魔力:1500、攻撃力:3000、防御力:3000、俊敏力:3000、知力:1500、運:4000、BP:0

スキル:《鑑定》《忍耐》《アイテムボックス》《言語理解》《真武術:1》。

称号:《扉の主》《家の主》《異世界人》《初めて異世界を訪れた者》


 こんな感じになりました。

 魔力は魔法使えないし、知力ってじゆんすいな学力が上がるならいいけど、ゲーム的に考えたら魔法のりよくが上がるだけとかになりそうだし、そこまで多く振り分けなかった。

 代わりに、攻撃・防御・俊敏の三つを上げて、バランスをよくしてみた。

 そして、よく分からないけど努力ではどうしようもなさそうな運に、一番多く振り分けている。

 さて、これで決定したわけだけど……。

「……何も起こらないな」

 やっぱり、表示がゲーム的なだけで、俺の体に何か起こるわけじゃないんだろうか?

「まあいいや……とにかく、今日はいろいろありすぎてつかれたし、帰るか……」

 いや、元々家のなかなんだけど。

 くだらないことを考えながら、さっきよりマシになった体に力を入れ、【異世界への扉】に近づいた。

 すると、とつぜん目の前にメッセージが出現した。

かんきんできるアイテムがあります。【血戦鬼の大牙】、【魔石:B】、【血戦鬼の胴鎧】、【血戦鬼の籠手】、【血戦鬼の腰鎧】、【血戦鬼の脚甲】を換金しますか?』

「へ?」

 か、換金?

 いつしゆん何のことか分からなかったが、称号の【扉の主】をかくとくしたことで使えるようになったという機能の中に、【換金】というこうもくがあったことを思い出した。

「換金って……一体どうなるの?」

 よく分からないが、確かにこれらのアイテムを持ってたところで俺には使い道がない。

 ただ、鎧と籠手と脚甲はいつか身につけることがあるかもしれないということで候補から外して、それ以外を【換金】した。

 すると……。

『アイテムを換金しました。【血戦鬼の大牙】……50万円。【魔石:B】……100万円』

「は?」

 思わずけな声が出た。

 しかも、さらに追い打ちをかけるように、何もない空間から紙の束が落ちてきた。

「…………………………」

 意味が分からなかった。

 よく見ると、1万円札の束である。

 ぼうぜんとしながらそれを拾いかくにんすると、メッセージに表示された通り、合計150万円が手元にあるのだ。

 俺の知る限りの方法で、そのお金がにせさつじゃないか確認するが、どうも本物っぽい。

 思わずスキル【かんてい】を使い、調べてみた。

【150万円】……異世界のアイテムを換金した物。札番号など、地球の経済が混乱しないように地球内の情報を操作して生み出した、しようしんしようめいの1万円の札束。

 余計混乱した。

 地球内の情報操作って何!? いや、本物なのは分かったけど!

 どこまで【鑑定】を信じていいのか分からないが、もし鑑定の内容が本当なら、俺は150万円を手に入れたことになる。

 浮かれているだけかもしれないが、俺には【鑑定】の内容が本当にしか思えなかった。

 そもそもこの扉自体が神様すら知らないようなものらしいし、地球の情報操作とやらができてもおかしくない。理解は追いつかないけど。

 でも……。

「えぇぇ……本当に150万円なのかよ……これ、どうするの……」

 いや、生活するのもギリギリな俺からすれば、非常にありがたい。

 人としてダメだとか、もっとよく考えて行動しろとか言われようが、俺はいい人ってわけじゃないし、頭もよくない。

 目先に利益があるなら、簡単に飛びついちゃうよ。

 ということで……。

「……もらっとこ」

 ただ、銀行に預けるわけにもいかないので、鎧や籠手、脚甲といつしよに【アイテムボックス】にほうり込んだ。うん、少しずつ使っていこう。

 そう決めた俺は、最後の最後で大きくおどろかされ、フラフラな状態で家に帰るのだった。

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