第二章 レベルアップの恩恵(2)

「そう言えば、あの畑には何が育ててあるのかな?」

 服を手に入れた俺は、一日ったことでさらにこうしんげきされ、再びこの家を調べてみようと思った。どうせ春休みの宿題も終えている。

 さらに言えば、ぐうぜんによって俺が何年も働いてやっと手に入るようなお金も手に入れることができた。

 せっかくこうして時間があるわけだし、何よりこの春休みが終わってしまったらまたいそがしくなるだろう。

 そう思った俺は、家の外に出て、畑をかくにんしに行った。

「おぉ、なんかよく分からない草と野菜? が植えられてるな」

 雑草と見間違えそうになる草と、トマトらしきものや大根らしきものがたくさん植えられている。

 草の方は、綺麗に並んで生えているから、雑草じゃないと判断できた。

「ん? あ、あれで水をやってたのか」

 畑のすぐ近くに、銀色のジョウロが置いてある。

 そのジョウロを持ってみると、中には水が入っていた。

「……もしかしてだけど、このジョウロもなんか特別なの?」

 もしやと思い、一応かんていしてみると……。

【無限のジョウロ】……水が無限にき出すジョウロ。中の水はせいじようすいと呼ばれるもので、どんなれた植物でも、この水をあげればすぐに元気になる。水は常に清潔に保たれているため、人も飲むことができ、飲めば全身のろうを回復するだけでなく、りよくを増やすことができる。契約者:天上優夜。

「もう慣れてきた」

 うん、分かってた。

 そんなことだろうと思ってたさ。

 もともとの家主である賢者さんは、俺の想像をはるかに超えるヤバい人って認識だからな。

 そんな人が死んだってのもみような気分だが。

「んで? この作物は?」

 まず草に鑑定をかけてみる。

 すると……。

かんそう】……食べればを欠損していようが、失明していようが、ありとあらゆる傷や病気を治すことができる。また、魔力を回復させる働きもある。採取するとき、勝手に種を残すため、育てるのは非常に簡単。ただし、この草自体が伝説級に見つからない。

「やっぱり慣れなかったわ」

 まさかここまでぶっ飛んだ効果だとは思わないだろ!?

 これ、完全に医者泣かせな植物だよな。

 取りあえず、育てるのが簡単ってことだけでも分かってよかったわ。

「じゃあ、他のは?」

 どこかきんちようしながら、植えてある作物すべてに鑑定をかけてみた。

ちようりよくトマト】……食べればこうげき力がじようしようするトマト。他にも体力・精力が増え、疲れにくい体になる。採取するとき、種を勝手に残すため、育てるのは非常に簡単。

【無敵かぼちゃ】……食べればぼうぎよ力が上昇するかぼちゃ。他にも精神を安定させる効果があり、精神攻撃や状態異常に強くなる。採取するとき、勝手に種を残すため、育てるのは非常に簡単。

えいの大根】……食べれば知力が上昇する大根。他にも並列思考や高速思考など、とくしゆな脳の使い方に対応できるようになる。採取するとき、勝手に種を残すため、育てるのは非常に簡単。

【神速ジャガイモ】……食べればしゆんびん力が上昇するジャガイモ。他にも動体視力や反射神経などを強化する。採取するとき、勝手に種を残すため、育てるのは非常に簡単。

 よし、言いたいことが山盛りだな。

 まさかステータス上昇アイテムとはね! 賢者さんはどこを目指してたんだよ!

 それに、例に違わず勝手に種を残すって意味が分からないよな! そもそもジャガイモって種だっけ? 違うよな?

 このファンタジー要素まんさいの野菜。いや、見た目は俺の知ってる野菜なんだけどさ。

「……まあ、食えるようだし、何よりステータスが上がるなら……食べようか」

 そもそも、食えるのであれば、その分食費もくし、俺としてはありがたい。変な薬みたいな効果さえないならな。

「なんていうか……朝っぱらから疲れるなぁ」

 まだ昼前だというのに、俺はすでに精神的に疲れていた。いや、仕方ないと思うんだけどね。

 そんな風に思っていると、昨日ブラッディ・オーガと出会ったときの様なあつ感を感じた。

 すぐにその方向に視線を向けると、そこには真っ黒なスライムらしき物体が。

「……何だアレ」

 思わず鑑定をかけてみる。

 すると、こう表示された。


【ヘルスライム】

レベル:200、魔力:5000、攻撃力:1000、防御力:5000、俊敏力:100、知力:100、運:100


「マジかよ……」

 ブラッディ・オーガの次は、ヘルスライムですか……。

 あの、どう考えてもこの森、初心者向きの場所じゃないよね? いや、賢者さんがそんな場所にいたとはとうてい思えないけどさ。

 ただ、魔力と防御力だけなら昨日出会ったブラッディ・オーガと変わらないはずなのに、俺は不思議と冷静だった。

 確かに威圧感みたいなのは感じるのだが、昨日の様にすごくこわいとは思えなかったのだ。

 いや、怖くないわけじゃなくて、こしが引けるほどのきようを感じていないのだ。

 昨日より俺のレベルが上がったからとか、逆にこのヘルスライムがブラッディ・オーガよりレベルが低いからとか、そんな理由じゃない。

 なんか、昨日とは精神構造が変わってしまったような、そんな感じなのだ。

 ……それを実感できるのも怖いことだが、まあ冷静な考えができるというのはありがたい。

 そんな風に落ち着いてヘルスライムを観察していると、ブラッディ・オーガのように、この家の敷地の中に入ろうとすごい勢いで体当たりをり返していた。

「いや、本当にこの世界の生き物怖すぎるだろ……」

 いくらなんでもようしやなさすぎじゃね? 人を見つけたらおそおうと全力で向かってくるんだぞ?

 ……そもそも地球が平和すぎるだけなんだろうか?

「まあいいや。あまり敷地から出たくはないけど、この家の周辺くらいは調べてみたいよな。そうなると、今のじようきようみたいにせんとうけられないのかなぁ……」

 そう思いながら、俺は【アイテムボックス】から【ぜつそう】を取り出す。

「あれ? つうに持てるぞ……」

 何と、俺は【絶槍】を片手で持つことができたのだ。うん、これが普通なんだろうけど、俺としてはすごいことだった。

 まさか片手でやりを持てるとは思わなかった俺は、思わずその場で適当に槍をり回してみる。

 すると、多少槍に振り回されはするものの、何とかあつかえるレベルになっていたのだ。

「おいおい、レベルアップのおんけいすごすぎるだろ。俺の筋トレは一体何だったんだ……」

 これ、槍の使い方とか分からないから振り回されてるって感じだし、本で槍の使い方を調べてからその通りに使ってみたらどうなるかな?

 簡単にはできないだろうけど、それでもこうして槍が使えるようになったわけだし、何より男としてそれは非常にかれるものがあるわけで……うん、少しずつでいいから強くなりたいしね。

「そのためにも、まずはアイツをどうにかしないとな」

 俺は槍をにぎりなおすと、昨日はできなかった、とうてきを行うことに。

 なんか躊躇ためらいのようなものが完全になくなっている俺は、大きく振りかぶり、片手で槍を投げ飛ばした。

「ウソだろ!?」

 すると、槍は俺の予想以上のスピードで飛んでいく……どころか、気づいたらヘルスライムのどうたいに穴が開いていた。

 俺の力は、俺が思ってる以上に強化されていたようで、まさか投げた本人の認識以上の速度で飛んでいくとは思わなかった。

 ぼうぜんとする俺に、当たり前のようにもどってくる槍。

 ヘルスライムは、少し体をふるわせると、ブラッディ・オーガをたおしたときの様に、光のりゆうとなってしようめつしていった。

 そして、その場にはまたも同じようにいろいろなものが散乱していた。

「…………回収しよう」

 まだ現実味がなく、微妙な気持ちだったが、何が落ちているのかは気になったため、すぐに入り口まで向かった。

 そして、辺りをけいかいしながら落ちているモノをばやく回収し、鑑定する。

【ヘルスライムのかく】……ヘルスライムの心臓部。ぼうだいな魔力がめられており、様々な武具に加工して使える。

【ヘルスライムゼリー】……コーヒー味のゼリー。食べれば、魔力と防御力が増える。

せき:C】……ランクC。魔力を持つ魔物から入手できる特殊な鉱石。

「コーヒーゼリーかよ!?」

 まさか、手に入ったものの中に、コーヒーゼリーに近いものがあるとは思わなかった。それどころか、畑の作物と同じようにステータス上昇系だともな!

 そしてまた、魔石も手に入った。……これ、またもや高値でかんきんされるのかな?

 期待していないと言えばウソになる。俺の生活は厳しいから、お金が手に入るなら欲しいのだ。

 ヘルスライムの核も、使い方が分からないので、できるなら換金したい。ヘルスライムゼリーは持って帰るけど。

 落ちていた品々を鑑定していると、一つ鑑定しそこねていたことに気づく。

「あ、もう一つ落ちてた」

 落ちてた物は、オシャレな三日月に黒色の宝石みたいなものがめ込まれているシルバーネックレスだった。

「まさかのアクセサリー!?」

 俺はゲームなどくわしくないため分からないが、こうしたアクセサリーなどが落ちるのは普通なのだろうか? それとも、あのヘルスライムが着けてたのかな? オシャレなスライムだ。

 ってよく考えれば、ブラッディ・オーガもよろいとか落としたな……あの時は気が動転しててそこまで考えがおよばなかったけど、素材だけじゃなくて装備品も手に入るのが普通なのだろう。

 取りあえず、ヘルスライムから手に入れたことに変わりはないので、かんていしてみた。

くろづきくびかざり】……ヘルスライムから手に入る、レアドロップアイテム。装備者は夜間、様々なステータスが上昇する。また、太陽光を集め、それを魔力にへんかんし、装備者の魔力を常時回復させる。けいやくしや:天上優夜。

 まさかのレアドロップアイテムだった。

 まあ、スライムがオシャレってのも意味が分からないしな。ちょっと残念だけど。

 でも、効果は非常に良さそうだ。夜の間だけとはいえ、ステータスが上昇するらしいし、それ以外にも魔力を回復させてくれるのだ。魔力の使い方が分からないけどな。

 せっかく手に入れた初のレアドロップアイテムなので、俺は装備してみることに。ネックレスなんて着けたことねぇや。

「似合ってるかねぇ?」

 だれに聞いたわけでもないが、思わずそう口に出た。

 以前の俺なら完全に似合ってなかっただろうが、今はせてるしちょっとは似合っててほしいよね。

 そんな希望をいだいていると、メッセージが出現した。

『レベルが上がりました。スキル【気配察知】を習得しました』

「え」

 いや、ちょっと待て。

 あの激痛をもう一度味わわないといけないのか!? 確かにレベルは相手のほうが上だったし、レベルアップも理解できる。だが理解できてもなつとくできるか! いやだぞ、俺!

 取りあえず、一時的でも現実とうをしたい俺は、スキルのかくにんをした。

【気配察知】……気配を察知することができる。

 すごく簡単な説明だったが、つまりまんとかの『そこにいるのは分かってるぞ!』的なことができるわけね。これは普通にうれしいな。

 さっきみたいに、アイテムを回収するときは敷地の外に出なきゃダメなわけで、その間の危険度を減らせる。

 新たなスキルに満足したところで、とうとうステータスの確認に移った。


【天上優夜】

職業:なし、レベル:150、魔力:2000、こうげき力:3500、ぼうぎよ力:3500、しゆんびん力:3500、知力:2000、運:4500、BP:5000

スキル:《鑑定》《にんたい》《アイテムボックス》《言語理解》《真武術:1》《気配察知》

しようごう:《とびらの主》《家のあるじ》《異世界人》《初めて異世界をおとずれた者》


 結構上がってた。

 てか、どれもキリよすぎじゃね? こういうもんなの? 見やすいからいいけどさ。

「まあいいや。BPを割り振ってしまおう」

 ちょっと考えた後、俺はBPを割り振った。

 その結果がこれだ。


【天上優夜】

職業:なし、レベル:150、魔力:2000、攻撃力:4500、防御力:4500、俊敏力:4500、知力:2000、運:6500、BP:0

スキル:《鑑定》《忍耐》《アイテムボックス》《言語理解》《真武術:1》《気配察知》

称号:《扉の主》《家の主》《異世界人》《初めて異世界を訪れた者》


 前とはちがい、今回は魔力と知力にはBPを割り振らなかった。

 その代わり、運に2000ほど割り振ったのは、さっきのレアドロップアイテムがあったからだ。

 完全な予想だが、この運というステータスが高ければ、さっきみたいに手に入りにくいだろうレアドロップアイテムがまた手に入るかもしれない。

 それに、運がいいってだけでなんだか嬉しいしな。

 朝っぱらからイベントの連続だったが、もう昼になったので、俺は一度家に戻るのだった。

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