プロローグ(3)

   ***


 優夜たちがレガル国に向かっているころ。

 アルセリア王国の王城にて、レクシアはため息を吐いていた。

「はぁ……ユウヤ様、今ごろ何してるのかしら……それに、チキュウで食べたクレープ、また食べたいわ……」

「またそれか……」

 そんなレクシアに対し、護衛であるルナもため息を吐く。

「だって仕方ないじゃない! もう長いことユウヤ様と会えてないのよ!? 会いたいと思うのは不思議じゃないわ!」

「だったらどうするんだ?」

「会いに行くのよ!」

「馬鹿なのか?」

 何も考えず、素直に思ったことを口にするレクシアに、ルナは呆れていた。

「あのな……お前はもう少し自分の身分のことを考えろ。王女がそう簡単に外を出歩けるわけないだろう?」

「でも……」

「それに、会いに行ったところで、ユウヤにはユウヤの生活があるのだから、すぐに離れることになるのは変わらないんだぞ」

「それなら私とユウヤ様が結婚すれば問題ないわ!」

「大ありだ、馬鹿者。第一、一度断られてるんだろう? なら諦めるんだな。……代わりに私がユウヤのそばにいてやろう」

「ちょっとおおおおお! そんなの許すわけないでしょおおおおお!?」

 非常に騒がしいレクシアたちに、城に勤める兵士たちはまたかと言わんばかりに苦笑いを浮かべていた。

 しばらくの間言い争った二人は、疲れたように再びため息を吐いた。

「はぁ……ここでルナとどんなに言い争ってもユウヤ様には会えないのよね……」

「当然だ。お前には王女としての責務があるだろう?」

「王女としての責務って何よ」

「いや、私にくな……まあ国同士のつながりを強化したり、色々と外交面で王女としての役割があるのだろう? 私がお前の護衛になる前からお前がやってきたことじゃないか」

「まあね……でも、そろそろ私も学園に行かなきゃいけないのよ」

「学園?」

 ルナが不思議そうに首をかしげると、レクシアは面倒くさそうに続ける。

「ええ。ルミナス皇国にある『オーレリア学園』って聞いたことない?」

「ん……何となく耳にしたことはある。ただ、私が闇ギルドに所属していた時、ルミナス皇国で仕事をすることはなかったから、よくは知らんが……」

「まあ簡単に言うと、いろんな国の王侯貴族の子息子女が通う学園ね。たいていの国の王族は時期が来ればそこに通うことになるわ」

「それはどうしてだ?」

「人脈づくりとか外交だとか色々な理由はあるけど、結局は国のためね。聞いて察せる通り、楽しい場所じゃないわよ」

「ということは、お前もそこに行くのか?」

「……年齢的にね」

 心底嫌そうな表情を浮かべるレクシアに対し、ルナは気の毒そうに告げる。

「そうか……まあ頑張れ」

「はあ!? 何言ってるのよ! ルナも一緒に行くんだからね!」

「なっ!? 何故なぜ私も行かなきゃいかんのだ!」

「私の護衛でしょ? 連れていくに決まってるじゃない」

「嫌だぞ、そんな面倒な学園は!」

「私だって嫌よ! それに、学園に入ったらますますユウヤ様と会えなくなるわ!」

 レクシアにとって、他国の貴族や王族を相手にするよりも、優夜と会える機会が減ることの方が何よりも我慢できないことだった。

 すると、レクシアは不意に天啓が降りたように顔を上げた。

「そうよ……学園よ……!」

「は?」

 今まで散々『学園』が嫌だと口にしていたレクシアが、今度はうれしそうに『学園』と叫ぶ様子に、ルナは呆気あっけにとられる。

「だから、学園なのよ!」

「……とうとう頭がおかしくなったのか?」

「何でよッ! まだ分からないの? 学園に行くのなら、ユウヤ様と同じ学園に行けばいいのよ!」

「あ……」

 まったく予想していなかったレクシアの発言に、ルナは目を見開く。

「マイも言ってたけど、ユウヤ様の世界にも学園があることは間違いないわ! だから、私が留学するのはオーレリア学園じゃなくて、チキュウでユウヤ様が通っている学園にすればいいのよ!」

「そ、それはいいが……そんなこと国王が許すのか? そのオーレリア学園に行くのがこの国の王女の慣例なのだろう?」

「そこは押し通すに決まってるじゃない!」

「まさかの力業!?」

 何か作戦があるのかと思いきや、ただのゴリ押しをするつもりだと言うレクシアにルナは驚く。

 しかし、レクシアもそれなりの理由を用意していた。

「というのは半分冗談よ。だってチキュウにある学園よ? ルミナス皇国に行くよりも、学ぶことが多いとは思わない?」

「そ、それはそうだが……」

「この世界のことを学ぶのも大切だけど、他の世界を知ることができれば、アルセリア王国に大きく貢献できるかもしれないわ! これならお父様も許してくれるはずよ!」

「そう簡単にいくか?」

「ダメだったら押し通すまでね!」

「やっぱりな……」

 レクシアの中で優夜の学園に通いたいという気持ちが芽生えた以上、もはやルナが何を言っても止まることはなかった。

「というわけで、さっそくお父様のところに行くわよ!」

 ――――こうしてレクシアたちは、優夜の知らないところで動き始めるのだった。

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