異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する 6 ~レベルアップは人生を変えた~
プロローグ(1)
――――【世界の廃棄場】。
世界中の負の力が渦巻くそこで、『邪』の一人が鼻歌を歌っていた。
「フフーン♪ どうやって殺そうかなー。切り刻むのもいいし、焼くのも捨てがたいなぁ……あ、毒をばら撒くのも面白そうだねぇ! どんな悲鳴を上げてくれるんだろう? 楽しみだなぁ!」
無邪気に残酷なことを口にする『邪』。
その容姿は幼い少年のようで、赤黒い髪に、赤い瞳と青い瞳のオッドアイが特徴的だった。
すると、そんな少年の姿をした『邪』のすぐそばに、また別の『邪』がゆらりと現れた。
新たに現れた『邪』は、青黒い髪と金の瞳が特徴的な、どこか浮世離れした雰囲気を持つ美青年だった。
「――機嫌がいいな」
「ん? まあねー。なんてったって、ようやく『聖』の連中たちを殺せるんだよ? 楽しみで眠れないんだー」
「フッ……そこまでやる気があるならば、こちらも頼みやすい」
「え? なになに? どうしたの?」
どこかもったいぶった様子で告げる青年の『邪』に対し、少年の『邪』は興味津々といった様子で訊く。
すると、青年の『邪』は、笑みを浮かべた。
「喜べ。最初の仕事だ。レガル国を滅ぼしてこい」
「レガル国?」
少年の『邪』にとっては聞き慣れない国名だったのか、首を捻る。
「んー……って、よくよく考えたら人間どもの国なんて一つも知らないや。アハハハハ」
「はぁ……笑い事ではないな。地理くらいは把握しておけ。でなければ、殺しに向かうことすらできんぞ」
「はぁい。……で? その国を滅ぼすって、何かあるの?」
「『剣聖』がいる」
「!」
青年の『邪』の言葉に、少年の『邪』は目を見開いた。
「どうやら、『剣聖』は今、そのレガル国に身を置いているようだ。それに、レガル国には近々開催される建国記念祭とやらで多くの人間が集まる……どうだ? お前に相応しい舞台ではないか?」
「……」
青年の『邪』の言葉を、顔を俯かせて聞いていた少年の『邪』は、顔を上げた。
その顔には――――悪意に染まった笑みが浮かんでいた。
「最っっっっっっ高じゃないかあ! 何だい何だい!? 君、僕に『剣聖』を譲ってくれるの!? それだけじゃなく、他の人間たちがいる場所まで!?」
「ああ」
「ウソじゃないよね!? ウソって言ったら、殺すよ!?」
「ウソではない。どうだ? 頼まれてくれるか?」
青年の『邪』の言葉に、少年の『邪』は笑顔で頷いた。
「勿論じゃないか!」
「フッ……それはよかった。だが、襲撃はレガル国の建国祭に合わせろ。いいな?」
「言われなくても! だって、その方が人間どもがたくさん集まるんだよね!? むしろそこしかないじゃん! いいねぇ、いいねぇ! 殺戮パーティーだ! 最高の地獄を作ってあげるよ!」
実際は、今すぐにでも殺しに向かいたい衝動に駆られる少年の『邪』だったが、それ以上に、人類を一度にたくさん殺せるその時まで、楽しみとして我慢することにした。
それでもワクワクが止まらない少年の『邪』だったが、ふと気になったことを青年の『邪』に訊く。
「でも……どうして僕に譲ってくれたんだい? てっきり、『剣聖』は君が殺しに行くのかと思ったよ」
「確かに、俺が力を与えた『拳聖』を殺した可能性が高いのは、『剣聖』だ。だが、だからと言って、俺が『剣聖』を殺さなければいけない理由はない。俺は……いや、我々の誰かが、『剣聖』を、人類を滅ぼせればそれでいいのだ」
「ふーん……ま、何だっていいけどね。小難しい話は君や彼に丸投げだからさー」
「俺たちとしては、お前にも頭を使ってもらいたいんだがな」
「それは難しいなぁ。だって僕、どう殺せば一番面白いかいっつも考えてて、他のことを考える余裕がないんだよね!」
「……まあいい。とにかく、お前にレガル国を任せる。俺たちは他の国を攻めるための用意をしておこう」
「りょうかーい。それで、もう向かっててもいいのかな?」
「それはいいが、何をするつもりだ?」
「えー? ナイショー♪」
「……まあ、我々の存在がバレない限りは好きにするがいい」
「やったー! じゃあ、早めに向かって、確実に人間たちを殺すためにも、色々仕掛けよーっと」
そう語る少年の『邪』は、もうすでにまだ見ぬ土地の人間たちを殺すことだけに意識を向けていた。
「あ、そうそう。何人か『
「ん? 『堕聖』を?」
「うん」
「……意外だな。てっきり、お前ひとりでやると言うと思ったのだが……」
「えー? それは心外だなぁ。知ってる? 一人より複数人の方が楽しいこともあるんだよ?」
「なるほどな。ならば……」
青年の『邪』が指を鳴らすと、空間に亀裂が入り、そこから二人の人間が姿を現した。
細身でありながら鍛え抜かれた肉体を見せる、半裸の男。紺色の短い髪に、鋭く切れ長の目が特徴的で、背には自身の身長を超える長槍を背負っていた。
もう一人は、どこか地球の忍者装束のような黒い衣装を身に纏い、口元を同じく黒い布で覆った男。長い緑の髪を一つにまとめ、同じ緑の瞳を持つ目はとても冷徹な印象で、腰に二つの草刈り鎌が提げられている。
二人の男は、すぐさま少年の『邪』と青年の『邪』に対し、跪いた。
「「――――お呼びでしょうか」」
「こいつらでいいか?」
「うん、いいよー。見た感じ……『
「そうだ。実力は、こちらに降ったとはいえ、元は『聖』だ。問題ないだろう」
青年の『邪』が語るように、新たに現れた二人の男は、元は『邪』と対立している『聖』であり、こうして『邪』の駒となったことで、『堕聖』と呼ばれるようになっていた。
二人の『堕聖』は、静かに頭を下げていたが、目の前にいる二人の『邪』に対し、体の震えが止まらなかった。
それほどまでに、少年の『邪』と青年の『邪』から放たれる力が大きく、嫌でもその実力差を感じさせられたのだ。
そんな震える二人の様子に気づいている少年の『邪』が、二人を眺めて嗜虐的な笑みを浮かべていると、突然、その場に新たな歪みが生じた。
それは、闇が滲み出るような空間の歪みだったが、その歪みそのものが徐々に形を持ち、やがて一体の【化け物】が生み出された。
その化け物は、静かに赤い瞳を開く。
「グギィ、グギャ……」
「なっ!?」
「こ、これは……」
そんな化け物に、思わず警戒態勢をとる二人の『堕聖』。
すると、その化け物は少年の『邪』を視界に捉えると、なんと襲い掛かったのだ。
だが、襲い掛かられた少年の『邪』は、その化け物を冷めた目で見つめる。
「はあ……これだから生まれたてって嫌いなんだよねぇ。実力差も分からないから、死も恐れないし、面白くない――――邪魔」
「グギィィ!?」
少年の『邪』が、無造作に手を振り払うと、その化け物は吹き飛ばされ、無様に地面を転がった。
その光景を、ただ呆然と見つめていた『槍聖』が、思わずといった様子で口を開く。
「あ、あの化け物は……」
「ああ、君らは初めて見るんだっけ? あれは、僕ら『邪』の成りそこない……『
「じゃ、『邪獣』……」
「そうそう」
「まあ、成りそこないというか、我々の搾りかすの結晶だな。ただ、成りそこないではあるが、調教すれば使える。なんせ、腐るほどいるからな。いい戦力になる」
「……」
二人の『堕聖』は何も言えなかった。
「確かに僕らの成りそこないだけど、こいつらと戦えば、君らでも死んじゃうかもよ? アハハハハ!」
無邪気に笑う少年の『邪』の姿に、『堕聖』の二人は顔を青くする。
何故なら、自分たちが戦えば、死ぬかもしれないような存在を、戦力として大量に保持していることを知ったからだ。
どう見ても、『聖』側が『邪』に勝てるイメージが浮かばなかった。
「とはいえ、もう少し手加減しろ。あれでは使い物にならん」
「ええ? 治せばいいじゃん」
「そんな手間をかけるくらいなら、殺す。ただ、殺すのも面倒だ。よって、放置だ」
「アハハハハハ! ひ、酷いね!」
「腐るほどいるからな」
ひとしきり笑った少年の『邪』は、笑みを浮かべたままの青年の『邪』に告げる。
「じゃ、ちょっと行ってくるね。ついでだし、使い物になる邪獣も何体か連れてくよ?」
「ああ、好きにしろ。いい報告を期待している」
「はいはーい。……って、何ぼさっとしてるの? そんな調子だと、殺しちゃうよ?」
「っ! す、すみません……」
少年の『邪』はいまだに呆けている二人の『堕聖』にそう言うと、その場から去っていった。
それを見送った青年の『邪』も、自分の仕事のため、その場を去る。
すると、そこには、先ほど吹き飛ばされた『邪獣』のみ、取り残された。
「グガ、グギィ……」
もはや虫の息であり、今にも死にそうな『邪獣』。
だが――――。
「ギ!? ギィ――――」
突如、横たわる『邪獣』の体の下に、魔方陣らしきものが展開され、その魔法陣が激しく輝く。
必死にその魔法陣から逃れようとする『邪獣』だったが、体は思うように動かず、そのまま魔法陣に光に体が絡めとられていく。
そして、光が収まると……そこには、『邪獣』の姿はなくなっていた。
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