時代という名の迷宮の中で

 歴史を紐解く行為は、迷宮を辿る道程に似ている。
 迷宮の順路が決まっているように、歴史に「IF」は無く一本道だ。基本的にファクトは動かない。
 けれども、迷宮の中ではたと己の位置を見失ってしまうことがあるように、人は時に歴史の解釈に迷い、悩み、ファクトの意味さえも変わってしまうことがある。

 本作は、そんな歴史――時代と言う名の迷宮の中を二人の男女がさまよい、時に出会い、時に別れながら、それぞれの視点でそれぞれの時代を語る物語だ。
 巨視的に時代を語った際に零れ落ちてしまうであろう、個人の視点レベルで語られる時代の空気は厳しくも時に生命エネルギーに溢れ、「ああ、こんな時代もあったのだな」と感じさせる。
 言ってみれば、微視的な観点から語られる昭和史と言ったところだろうか。

 もちろん、本作はただ歴史を語るだけのものではない。
 時代を超えて邂逅と別離を繰り返す男女の姿を追う、ある種の伝奇ミステリ的な側面を持つ。
 何故に二人は出会い、求め合い、そして別れてしまうのか? この不可思議な旅路の果てに待つものは何なのか?

 この迷宮の真実を、どうかご自身の目で確かめていただきたい。