歴史を紐解く行為は、迷宮を辿る道程に似ている。
迷宮の順路が決まっているように、歴史に「IF」は無く一本道だ。基本的にファクトは動かない。
けれども、迷宮の中ではたと己の位置を見失ってしまうことがあるように、人は時に歴史の解釈に迷い、悩み、ファクトの意味さえも変わってしまうことがある。
本作は、そんな歴史――時代と言う名の迷宮の中を二人の男女がさまよい、時に出会い、時に別れながら、それぞれの視点でそれぞれの時代を語る物語だ。
巨視的に時代を語った際に零れ落ちてしまうであろう、個人の視点レベルで語られる時代の空気は厳しくも時に生命エネルギーに溢れ、「ああ、こんな時代もあったのだな」と感じさせる。
言ってみれば、微視的な観点から語られる昭和史と言ったところだろうか。
もちろん、本作はただ歴史を語るだけのものではない。
時代を超えて邂逅と別離を繰り返す男女の姿を追う、ある種の伝奇ミステリ的な側面を持つ。
何故に二人は出会い、求め合い、そして別れてしまうのか? この不可思議な旅路の果てに待つものは何なのか?
この迷宮の真実を、どうかご自身の目で確かめていただきたい。
7話からものすごく引き込まれました。
少し特殊な構成かも知れません。絶対に読み返したくなる。
東京大空襲や、学生運動。バブル時代、昭和の終わり。時代や場面を超えて、それでもなお二人は繋がろうとしている。お互いを探し求めている。戦時中の苛烈な描写は、見たことがあるんじゃないかってくらい辛く胸に迫ってくる。焼夷弾怖えー。
大変なスケール感のある物語だと感じました。自分という存在がここにいるというのが奇跡の内の一つなんだと思い出しました。当たり前だけど、両親がいないと人は生まれない。戦争は苛烈で、大勢が死んで、東京は焼き野原になった。それでもなお復興を遂げて、僕達がこうして生きている今現在の日本を形作っている。その影には、こうした二人の物語があったのだろう。だから、描写は念入りに描かれ、素敵な行為としているのかな、と思いました。多分、それは成功していると思います。本当に良かった。ぜひ大勢の方々に読んでいただきたい。