粟田口吉光(藤四郎)と言えば、鎌倉時代の名刀工であり、短刀の名手として知られる。その藤四郎が遺した唯一の太刀とされるものが、本作に登場する「一期一振」だ。
作中でも語られるかもしれぬので詳細は省くが、これがまた曰く付きの刀であり、様々な妄想の余地を提供してくれる歴史上の魅力的な題材でもある。
その魅力的な題材を、確かな戦闘描写に定評のある西紀氏が、その豊富な刀剣知識と共に料理するのだから、面白くない訳がない!
外連味溢れる「剣士vs忍者」という歴史・時代伝奇の王道のようなバトル。
人間臭い、しかし同時に武芸者や忍として迷いなく命を断つ殺伐さをも併せ持つ登場人物たち。
戦国の世の終わりにおける権力闘争と巧みに絡められた、各派閥の企みと意図。
そのどれもが斬れ味バツグン。
作者氏自身がタグに「時代劇」と銘打っているように、本作は時代歴史小説でありながら、同時に古き良き時代劇(チャンバラ活劇)の思い切りの良さをも併せ持った、痛快時代「劇」小説に仕上がっている。
時代小説好きにも、時代劇好きにも、更には刀剣好きにも、是非とも読んで頂きたい傑作。
まだ二話の時点ですが、素晴らしい作品だったのでレビューさせてください。
【面白かった点】
冒頭の天丼からして演出の良さが光りますが、そんな銘刀のような文章の切れを堪能していると、あれよあれよという間に豊臣政権瓦解に繋がる陰謀に導かれます。
たった一振の謎の刀から、そんな壮大なサスペンスが立ち現れてくるストーリーが本当に面白い。
【良かった点】
「なくなるわけではない。見えなくなるだけだ」とは、雲間に隠れていく陽光を見て感じた宗章の言葉ですが――
それは語られることのない歴史の真実なのか、あるいは埋もれていく宗章自身か、はたまた今回の陰謀を企てた忍たちのことか。
何にしても「まぼろし」をテーマにした、それぞれの人物造形がとても良い。
【期待している点】
掛け値なしに傑作。是非ともカクヨムコンで成果を上げてほしい作品です。心の底から嫉妬もなしにそんなふうに思える作品に出会えたことをうれしく感じます。
……異世界ファンタジージャンルでなくて本当によかった(小声)。