心くくる粋なそよ風

 出だしの三行で私は本作に縛りつけられてしまった。染められもした。穏やかでもあり激しくもある、人の心の波具合をこれほど正確に活写した様子はこれまで読んだことがない。
 探偵は探偵らしく活躍するのだが、実は、役回りは助手(!)なのだ。未熟であれ手助け(まさに『助け』だ)を受けたのであれ、本作において真の意味での探偵は主人公である。何故なら祖父の贈り物の真意を読み解き決定づけたのは主人公なのだから。
 大学生時代というのは青春の晩夏といえよう。生涯青春というハッスル人生もあるが、ここでは脇に置く。法学という、ある意味現代社会へ非常に繊細にかかわる学問(と、その実践)を選択した主人公はどんな実りを得るのだろう。きっと香り高く祖父や父の誉れをなお出藍させた法律家になるに違いない。 以上。

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