第八話 ユカからの告白

 ユウトチームもナカムラチームも初めての実戦で緊張している。

 皆、手に汗をかいていた。


 しかし、ユウトは緊張しながらも、落ち着いていた。

 俺の魔法力なら瞬殺だ。

 3分でケリを着ける、と。


「ではユウトチームVSナカムラチーム、模擬戦開始!」

 訓練場の至る所でチーム同士による模擬戦が開始された。



 シャノの合図後、ナカムラが「行け! ホンダ!」と叫ぶ。

 ポケ○ンかよ…。


 ホンダがユウトたちへ向かって、全力で走る。


 迫るホンダ。


 間髪入れず、シマダが「まずは水舞撃で敵を足止めして…」と言う。


 だが、シマダが魔法を唱えるより先にユウトが、

「大・炎波撃!」

と魔法を唱え、ナカムラたちを紅蓮の炎が包み込んだ。


「クソヤロウ!」


 ナカムラが吠える。

 猛烈に燃え盛る炎で身体が熱くなる。

 ナカムラたちのアーマーのHPはこの一撃だけで半分以上消耗してしまった。


「反撃だ!

 行け! フジワラ!」

 ナカムラの指示でフジワラが集中に入った。


 そして、「氷破げ…」と氷破撃を唱えようとするが、唱え終わるより先にユウトが、

「雷破撃四連打!」

 と唱えた。


 集中が必要な破撃系の攻撃魔法を一発ならまだしも四連発するのは、かなりの魔法の使い手じゃないと難しい。


 ボール状の電撃がナカムラたちを襲う。

 魔法による眩しい光にナカムラはめまいがした。

 そして、首輪が発するバリアであるアーマーの上からでもビリッと感電した。


「こっちだ!」


 ナカムラ以外のメンバーがシャノによって緊急避難させられていた。


「HPが0です。

 戦闘続行不可能です。」


 脳内で首輪が発する声がする。

 ホンダ,フジワラ,木口君の三人のアーマーはHPが0になっていた。


「クッ、クソッ!」


 ナカムラだけが、よろめきながらなんとか立っていた。


「最後に……

 これはいじめられている木口君の仕返しだ!

 大・光舞撃!!」


 気づくと、ナカムラもその場に倒れていた。


「チ、チクショウ…」

 うつ伏せのナカムラがうめき声を上げる。



 模擬戦が始まってから時間にしてジャスト3分。


 瞬殺だった。





 ユウトは強い、強すぎる。

 しかし、現在のユウトよりも強い敵はいくらでもいる。

 その時のために、チーム内の連携を鍛えておいた方が良いな。

 来月から連携の特訓をしよう。

 シャノは思った。



一つのメルヘンフローラル・ウインド!」


 模擬戦が全て終了した後、生徒たちのアーマーの上から負った傷や体力はミント先生の唱える魔法によって回復した。


「みんな、頑張ったね!」


 ミント先生は嬉しそうだ。




「ユウト~、俺たちの見せ場も作れよな」

 ユウトはダイゴからこづかれた。


「でも、ユウトがいれば僕たちのチームは安泰だな」とチャゲ。


「まったく、その魔法の力を分けてくれよ。

 俺の仮説だけど、むっつりスケベだと魔法の素質があるはずだ」


「そんなバカな!」

 シマダの冗談に笑って返す。


 その後も勉強と訓練に明け暮れ、魔法暦3月になった。

 2月末の座学終了時のテストでもチャゲはトップだった。

 一つ、ユカにとっての事件があった。

 エレーヌがユカに対して恋の宣戦布告をしたのだ。


 エレーヌは高一の頃からユウトがユカが好きだと勘付いていた。

 廊下でエレーヌがユカと二人になった時に……


「ユカ、ユウト君のことをどう思う?」


 そうエレーヌが問いかけると、


「えっ、私は……」


 ユカは言葉に詰まった。


 ユカがユウトのことを好きなのはまだ誰にも言っていない秘密だったのだ。


「私、ユカに負けないからね!」

 強い口調でそう言うと、エレーヌは足早に去って行った。


 また、三月になると、外を出歩くことを許可された。


「今日から魔物がいる屋外を出歩くことを許可する。

 今のみんなの実力ならこの辺りにいる魔物は簡単に倒せるだろう。

 今日は男女ペアで外を探索してもらう。

 危なくなったらバトルスーツのボタンを押せば駆け付けるよ。

 ペアの相手はこちらで指示する」


(クラスで一番目に強いユウトと二番目に強いユカは将来の作戦の要になる。

 今日のこのイベントで二人を引き合わせておくのも、将来の二人の連携のためにいいだろう。)


 ペア探索は、シャナの作戦だった。



 ペアの相手が発表され……


「ユウト、ユカとペアなんてずるいよ。

 俺の相手と交換してくれ」


 ダイゴが羨ましそうに口にする。



「ダイゴ、ちょっとあんたねー」

 頬を膨らませて抗議するのは、ダイゴのペア相手のモエコだ。



 そして、ペア探索が開始された。


「ユカ、そ、その…。

 男女二人だと照れるね」


「私も。

 でも、クラスで一番強いユウト君となら魔物に出会っても安心ね」

 二人の会話は初々しさにあふれていた。


 二人で涼しいジャングルを歩きながら、ユウトは横目でユカのことをチラ見した。

 黒髪ロングもセクシーなバトルスーツ姿もまばゆいばかりに魅力的だ。

 ユウトは緊張していた。


 その時…!

 草陰で物音がした。


「モンスターが来る!!」

 ユウトとユカは戦闘モードに入った。


 現れたのは、5メールほどの身長のある巨大なドレイクだ。

 ドラゴンに似た姿で毒々しい肌をしている。


「あれはサンダードレイクね。

 座学で習ったわ」


 心臓がバクバクしながらも、冷静に対処しなきゃと思うユカ。



「うっ!」


 ドレイクがユウトに飛びかかった。

 思いっきり咬まれた!


 素早い先制攻撃を受け、歯がアーマーを突き破って腕に食い込む。



「聖破撃!!」


 ユカが魔法で攻撃すると、ドレイクは傷を負い、一瞬ひるんだ。


「今だ!

 大・氷撃!」

 激しい吹雪のような氷のつぶてがユウトの手から放出された!

 攻撃魔法をまともにくらったドレイクは動かなくなった。



「うう…」

 腕に負った傷口が沁みて痛い。

 しびれもある。

 ユウトは呻いた。


「ドレイクの毒ね。

 解毒の神助ポイズン・ケア!」


 ユカの手がユウトの右腕に触れる。

 ドキドキして、ユウトの胸の鼓動が早まる。


「痛くない……!

 サンキュー」



 探索の帰りの道すがら、ユカがユウトに身を寄せてきた。

 ドギマギするユウト。


「ユウト君、私ね……」

 ユカが一呼吸置く。


「私、ユウト君のことが好き!」


「私ね、ユウト君のことを知ったのは、実は高校に入ってからじゃないの。

 小学生の時に通っていたスイミングスクールで隣のクラスだったんだよ。

 遠くから、いつもユウト君はかっこいいなと思っていたの。

 ユウト君の友達が「ユウト!」と呼ぶのを聞いて名前を覚えたんだ。

 遠くから見ているだけで報われない私の初恋は小学校時代で終わるはずだった」


 髪をかき上げてユカが長い独白をする。



「高校の入学式で驚いたの。

 顔は成長しているけど、間違いなくユウト君だって。

 しかも、同じクラスですごく嬉しかった」


 ここでまたユカは一呼吸置いた。



「ユウト君、私と付き合って!」


 クラス一の美少女のユカが付き合ってほしいだって…?


 ユウトの頭は混乱する。




「ユカ、俺は……」


 ふいにエレーヌのことが頭に浮かんだ。


 ユウトは言葉に詰まりながら最も誠実な答え方を探していた。



「……考える時間が欲しい」

 声を振り絞るようにユウトは言葉に出した。

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