第二話 What's 魔科大戦!?

 ユカは不安な面持ちでシャノと名乗る男の話を聞いていた。

 スラッとして長身のシャノは、30代くらいに見える金髪のイケメンだった。


 しかし、話している内容が浮世離れしすぎている。


 ここまでを回想すると……


 ユカの乗っていたバスが海に転落して、死んだと思っていたら生きていた。

 目覚めた白い部屋には32人の生徒がいて、ユカが密かに想いを寄せるユウトもいた。

 ユウトと目が合った気がして、場違いな思いなのだが、ドキドキしてしまった。

 そして、ユウトも生きていたのだと安心した。


 シャノはファンタジーめいた話をし始めた。

 にわかには信じられないような話だった。


 シャノの話を要約するとこうだ。


 地球から約2000万光年離れた惑星ババロアでは、シュラフと呼ばれる一つの民族が魂を科学的に研究し、魂の波形を体外に魔法として表現する魔法学と呼ばれる技術の探求を行っていた。


 魔法学の研究の結果、優れた魔法は通常の戦艦を一瞬で破壊できるほどの威力を有するようになった。


 普段から惑星ババロア中央政府から搾取されていた民族シュラフは、この力を持って中央政府に反乱を起こした。


 民族シュラフのみならず、中心政府に反抗心を持つ他民族も民族シュラフの陣営に加わった。


 こうして、既存の科学を用いた中央政府陣営と民族シュラフを中心とした魔法陣営による戦争が10年以上前に始まり、今も継続している。


 一般に魔科大戦と呼ばれるこの戦争はビバルゲバル星系に属する他の惑星にも広がっていった。


 そして、ここは惑星ババロアの辺境の土地ネコクラゲにある施設である戦士養成所の一室であり、これから一年間、B組の生徒はここで訓練に励み、その後戦地へ派遣されるとのことだった。


 こんな荒唐無稽な話は信じられない。


 ユカの表情は険しくなっていった。



 シャノは一通り話し終わると、「質問はあるかな?」と言った。


「クラスを代表して、僕オトナリが質問します。

 地球へ帰ることはできないんですか?

 来年は受験もあるし……」


 クラス委員長オトナリが堂々とハッキリした声で話す。


 こういう時のオトナリは頼もしい。


「できません。

 兵役を拒否すれば、皆の首にある首輪が爆発します。

 こんな風にね」


 そう言うと、シャノはコートの広々としたポケットから首輪を取り出し、後方へ投げた。


 次の瞬間、首輪が爆発した。


 耳をつんざくような爆音を聞きながら、B組の皆は唖然としていた。


 少年少女に話しながらシャノは思った。

 俺たちの戦争に巻き込まれるなんて、不幸な地球人だな。

 上からの命令なので仕方がない。

 それに、ユウトという少年とユカという少女は百万人に一人の魔法の才能があるようだ。

 上手くいけば、戦局が少し有利になる。


 地球で行動していた別働隊のユキと諜報部はよくやったよ。

 他の星系への干渉を禁じる宇宙警察の厳しい目をかいくぐることは容易ではなかっただろう。


「皆さんの帰りをご家族やご友人が待っていると思いますが、安心してください。

 皆さんの死体のダミーを作成し、海に沈めておいたので」


 ユカは恐怖のあまり、震え上がった。




「それと俺とみんなの地位は対等だよ。

 まあ、上官と部下という立場の違いはあるが、一個人としては対等だ。

 俺のことはシャノさんでいい。

 俺の首にも首輪がついてるだろう?

 俺も敵前逃亡したりしたら、この首輪がバーンだ」

 声音も変わらずに淡々とシャノは言う。


「この首輪は、高度情報化アイテムで、裏切った時の爆破以外にもいろんな機能がある。

 例えば、通訳機能。

 俺たちの言語と君たちの言語を時間差なしで通訳できる優れた機能だ。

 脳の中の情報を読み取って、次に言う言葉を正確に予測して翻訳している。

 そして、翻訳された言葉は発言者の声音で脳内に聞こえる。

 実は、俺もシュラフ語をしゃべっているんだけど、君たちには俺が日本語でしゃべっているように聞こえるだろう?

 君たちがしゃべる言葉も俺にはシュラフ語に聞こえる。


 まだまだ機能はあるが、他にはアーマー機能。

 物理攻撃も魔法攻撃も、この首輪から放射される薄くて堅いバリアが防いでくれる。

 バリアの残り体力を数値で現してくれる、これまた優れた機能もある。

 まあ、このバリアが破れた時が俺たち戦士のジ・エンドなんだけどな」

 シャノは落ち着き払った様子で言葉を続ける。


 徐々にユカは観念し始めた。

 ここで起こっていることは現実のことなんだ。


 父からは常日頃から「今、お前のできることをやりなさい」と教えられている。

 今できることは、とにかく生き残ること。


 そうすれば地球に帰れる日もいつか来るかもしれない。


「みんな、暗い顔して、戦うモチベーションなさそうだねぇ。

 良いことを教えてあげよう。


 俺たち魔法軍が科学軍に勝った時、君たちを地球に帰すことを約束しよう。

 手間はかかるが、君たちの関係者の記憶を操作しておくから、家族も友人も君たちを死者が生き返ったと思わず、温かく迎え入れてくれるだろう。


 そして、一人につき一つだけ願い事を魔法を駆使して叶えてあげよう」

 シャノは表情を変え、笑顔で台詞の最後を締めくくった。




 その言葉を聞いてユカは思った。

 絶対にクラスみんなで地球に帰るんだ。

 依然暗い表情の生徒が多い中で、ユカの瞳に闘志の火が灯った。



「さて、みんな、状況が理解でき始めてきたかな?

 次にみんなのチームを決めよう。

 仲良いグループで男女別に四人一組でチームを作りなさい。

 フォーマンセルで訓練をし、上官も含めたファイブマンセルで戦闘の作戦を実行してもらいます」


 シャノの話を聞いて、ユカはモエコとマリとチームを組めたらいいなと願った。




 一方、ユウトはダイゴとチャゲとシマダとチームを組みたかった。

 シリアスな出来事のはずなのに、なぜだか少し楽しい。

 修学旅行の班決めの時みたいだ。

 これは修学旅行の延長?

 現実感のないこの部屋がそう思わせているのだろうか。

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