第七話 模擬戦の相手は…?
午前中の座学の講義では、ミント先生が魔法や戦術についてや、ババロアの生物、地理、社会について教えてくれた。
ミントが教えてくれたことには……
民族シュラフなどが各地で蜂起を始めて魔法軍を名乗って5, 6年経った時に、魔法軍が占領した地域を魔法国とした。
その時に魔法国の間でそれまで使っていたババロア暦から魔法暦に改めたようだ。
一年間は地球と同じで12カ月あるが、一か月の長さは30日きっかりだった。
また、魔法軍は現在、惑星ババロアの3割ほどの面積を実効支配しているらしい。
ババロアには魔物が多く住んでいるという。
スライムやゴブリン、ミノタウロスやドレイク、ゾンビやガーゴイル……。
ゲームやアニメのモンスターは実在したんだ!
訓練で経験を積んだら、外に出て魔物と戦わせてくれるそうだ。
「うまく戦わないと食べられちゃうかもよ~」とロリッ娘ミント先生の注釈つきだ。
午後の実技訓練では、ユウトとユカの魔法能力の高さが際立っていた。
養成所に来てから一週間を過ぎる頃には……
「氷破撃!」
ユウトの手から空中に向かって氷のつぶてが超スピードで射出され、ズビズビッと大きな音を鳴り響かせながら的に突き刺さる。
ユウトは炎・氷・雷など様々な属性の魔法の素質があった。
また、撃・破撃・舞撃・波撃の四形状を早くもマスター。
(一週間でこれほど成長するとは……)
シャノは驚きのあまり言葉を失っていた。
撃・破撃・舞撃・波撃は手から魔法を飛ばす攻撃魔法。
撃は一番ノーマルなタイプ。
破撃は攻撃箇所を前方の一点に絞って唱え、効果時間が短く、効果範囲は狭いが威力は撃よりも強い。
舞撃は効果時間が長く、波撃は効果範囲が広い。
ユウトは攻撃魔法を唱えるうちにこれらの特徴を自然に体得していた。
「ツチノコ見つけた土野さんよりもすげーな。
俺なんか五円玉くらいの水の竜巻を出すくらいで精いっぱいなのに」
シマダがくやしがる。
「治癒の加護ヒーリング!」
ユカが唱えると、ユキが屋外に行った時に拾ってきた傷ついたウサギの傷口がふさがれていく。
ユカは攻撃魔法は得意ではないが、回復魔法の素質が開花していた。
「俺もケガしたら、ユカちゃんに治してもらおう」とセブン。
それからさらに一週間。
「炎拳!!」
炎をまとったダイゴの拳が的に炸裂する。
ユウトとユカ以外の生徒たちも攻撃魔法を徐々に使えるようになった。
もっともユウトとユカは他の生徒とは威力が段違いだったが。
チャゲは風属性の撃と波撃、シマダは水属性の撃と舞撃を習得した。
ダイゴは拳の形状が得意で、この形状は魔法が宿った拳で殴って攻撃するものだった。
「すげぇや。
俺のよくやる格ゲーのキャラクターみたいなパンチが出せる。
早く実戦で使ってみたいです!」
魔法が使えてご機嫌なダイゴがせっかちにシャノに願い出る。
「まあ、来月に模擬戦があるからそこでな」
「模擬戦!?
誰と戦うんですか?」
ダイゴがシャノに聞くと、シャノは「他のチームとだよ」とだけ答えた。
ある日のこと。
「今日は今まで座学で覚えた内容のテストをしまーす!」
ミント先生によるまさかの抜き打ちテストだ。
「えーっ!?」とクラスが騒がしくなった。
「聞いてないですよ、ミント先生!
クラスを代表して抗議します!」
どうせムダなのに、オトナリが抗議をする。
一時間のテストが始まったが、難しくてユウトは半分くらいしか答えることができなかった。
「座学は二月まであります。
二月の最後の日にもテストをするよ。
自習を頑張ってね!」
テストが終わると、ミント先生がこう言って締めた。
後日、テストが返却されると…
「上位を発表します!
一位 森英介君!!
なんと、全科目満点です!!」
一位はチャゲだった。
チャゲは秀才で、学力がいたって普通の俺たちの学校に入ったのも、「どの高校に行ってもどうせ偏差値上位の大学に入れるから、交通の便が良いところに行く」という理由だった。
今回、チャゲは適度に自習していてそんなにガリ勉しているように見えなかったが、頭の良さで満点を取ってしまった。
一方、自習さえ全くしなかったユウト,ダイゴ,シマダの点数はひどかった。
シマダと二人で百点満点の世界史のテストで一桁台の点数を取って、先生に叱られたことをユウトは思い出していた。
他には、クロサワ,ハットリ,ユカの友達の真里などのクラスメイトが上位に入っていた。
「真里、さすがね」
返却後のチームの部屋で、ユカが笑って言う。
「そんなことないよ」
真里も笑って返していた。
それから模擬戦までの間で起こった出来事で特筆すべきことは、エレーヌからのアプローチと木口君へのいじめだった。
廊下でたまたまエレーヌとユウトが二人きりになった時に……
「私、ユウト君のいつも一生懸命なところが好きなの」
エレーヌがユウトに近づき、自身の胸に手を当てて可憐に微笑む。
ふんわりといい匂いがする。
色が白く、目鼻立ちがくっきりとした可愛い笑顔に、ユウトはドギマギしてしまった。
「うわぁ!」
ユウトが突然声を発した。
近接距離のエレーヌが可愛すぎて、可愛すぎて、訳が分からなくなって思わず奇声を発してしまったのだ。
「ん?
どうしたの?」
エレーヌが透き通った青い目で不思議がる。
「あ、人が来る。
だから声を出したのね。
船の乗員はクルー。
じゃあ、またね」
エレーヌがダジャレを言ってさっと去る。
ユウトはエレーヌが告白してきたことをクラスメイトの誰にも言っていなかった。
エレーヌに悪い気がしたからだ。
エレーヌにとってはユウトが言っても言わなくてもどちらでも良かった。
これだけアプローチをすれば、エレーヌがユウトを好きなことはいつかは知られることだから。
その晩、ユウトはエレーヌに対して恋心が芽生えるのを感じていた。
ダイゴが「あいつの可愛さは異常だよ」と言うほどユカは相変わらず可愛いけど、エレーヌのことも好きに思えてきたのだ。
こんなに可愛い女の子が僕のことを好きなんて、ユカとの恋がどうせ報われないなら、エレーヌと付き合いたいな……。
木口君はナカムラチームの中でいじめられていた。
ナカムラチームの部屋の中までは他生徒から見られないが、外でもいじめが目についた。
外でいじめられている時はモエコが叱るか、クロサワがたしなめた。
しかし、いじめが止む気配は一向になかった。
だいたい、最初のチーム決めのドラフトからして僕にとって残酷なんだよ。
ドラフトで順々に指名されていって、最後の一人である僕をナカムラが指名した。
最後の一人になることは分かっていたことだけど苦痛だった。
そこから、僕の地獄の日々が始まった。
三人から「アトピーの赤色人種君」とか「のろま」などと暴言を吐かれ続け、部屋の中では「俺の言ったことができないようだな」と無理難題を突き付けられて殴られたりもした。
フジワラ君が止めてくれることもあったけど、それはいよいよ酷いことになった時だけで、大抵はナカムラとホンダと一緒に僕をいじめて嘲け笑ってきた。
魔法で仕返ししてやりたいけど、そんな勇気はないし、訓練場以外の場所で魔法を使うことは禁止されているからなぁ。
木口君はそう思い悩むと、涙があふれてきた。
しかし、木口君はクラスの誰よりも訓練に対して懸命に取り組んだ。
いつかナカムラを見返してやると思っていた。
二月になり、模擬戦の日になった。
「今日は、全力を出して一戦を戦ってもらう。
では対戦チームの組み合わせを言っていく。
まず、ユウトチーム対ナカムラチーム!」
シャノの声が訓練場に響いた。
初めての模擬戦はナカムラチームとなのか。
日ごろいじめられている木口君の仕返しをしてやろう。
養成所二日日のソンイの件もあって、ナカムラは許せない。
ユウトは奮い立った。
果たして勝敗は…?
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