第一話 ここは異世界?

 ん?


 ここは?


 まだ眠いぼんやりとした意識の中、ユウトは目が覚めた。

 立ち上がって辺りを見回すと、2年B組の生徒たちが仰向けに寝ている。

 ユウトが今いるのは何もない白い部屋だった。

 32人いるB組の生徒がギリギリ入る狭めの密室で、ドアもない。



 ユウトの他にもう一人立っている人物がいた。


 加藤雪カトウユキだ。

 目鼻の整った凛々しく美しい顔つき。


 クラスでは、そのクールな性格をフィギュアスケートの有名選手になぞらえて「氷の女王」と呼ばれている。

 気が動転しているユウトに比べ、ユキの表情はとても落ち着いているように見える。


 まるで、一仕事終わったとでもいうかのように。


 ユキを見つめるユウトの視線に気づいても、彼女の表情は何も変わらない。


 ユウトをまっすぐに見つめ返してきた。

 ユキの首に銀色の首輪がついている。


 気づくと、寝ている生徒皆の首に同じ銀色の首輪がついていた。

 もちろん、ユウトの首にも。


 その後、次々に生徒たちは目覚め、話し声が大きくなっていった。ザワザワと生徒達の不安げな声が聞こえる。


 部屋をざっと見渡して部屋にいる生徒の中にユカがいるのを確認してユウトはちょっとだけ安心した。

 気のせいか、ユカもユウトを見つけ、一瞬安堵の表情を見せたように見えた。


「ユウト、これはどういうことだ?

 バスが海に落ちて、その後……?」

 近くにいたチャゲが話しかけてくる。


 森英介は髪が茶色いため、チャゲと呼ばれている。


 地毛が茶色いのだ。

 茶髪に染めることが禁じられている学校に対し、地毛が茶色いという証明書類を提出させられている。


「さっぱり分からない」

 チャゲにそう答えると、ユウトは目前にある壁に歩み寄り、コンコンと壁を叩いてみた。


 次にユウトは壁を思いっきり殴ってみた。


 壁はうんともすんとも言わない。

 おそらくコンクリートでできた壁だろう。


「それだけ思いっきり殴ったら、殴った手が痛いでしょ?」

 チャゲが少し心配そうに聞いてくる。


「それが、全然痛くないんだ」

 不思議だった。


「まさか。

 俺も壁を殴ってみる」

 そう言って、チャゲも壁を勢いよく殴る。


「本当だ。

 全然痛くない」

 チャゲも不思議そうに言う。


 頭の中に

「衝撃によるダメージはゼロです」

 というロボ声が流れ込んできた。

 ますます混乱する。



「ユウト、チャゲ。

 何が起こったんだ?」

 生徒たちをかき分けてダイゴとシマダがやってきた。

 摩訶不思議なことが起きているが、この四人がそろうと少し安心する。


 その時だった。

 突然、前方の壁が轟音を出しながら倒れ、広々とした新たな部屋が現れた。

 部屋の中央には金髪で黒い目をした長身の男が立っている。


「2年B組のみなさん、こんにちは。

 俺の名前はシャノ。

 まあ、みんな、怖がらずに近くに寄って」


 シャノと名乗った長身の男は部屋中に響き渡る声で話した。

 生徒たちは疑心暗鬼だが、他に出来ることもないので、広い新しい部屋に恐る恐る入っていく。



「えー、みなさんをこの惑星ババロアの辺境の地であるネコクラゲに空間跳躍させたのはですね、みなさんに魔法戦士として魔法軍のために戦っていただきたいためです」

 平然とした顔で無愛想にシャノは言った。

 意味不明な展開の連続と、突然現れた男が放った真意の全く読み取れない言葉に、B組の生徒たちは静まり返った。


 何を言っているんだ、このオッサン。

 ゲームのやり過ぎか、アニメの見過ぎじゃないか?


 それとも、ここは本当に異世界なのだろうか。

 展開が不思議すぎる。


 このシャノという男も銀色の首輪をしている。

 何なのだろう、この首輪は。


「すみませーん、意味が分からないんですけどー!」

 モエコがガツンとするような大声で言う。

 こういう時、モエコの物怖じしない性格は貴重だ。

 親友のユカから頼られるのも分かる気がする。



「もう一度言いますね。

 あなた達には魔法戦士として魔法軍に所属していただきます」

 シャノがそう言うと、クラスがまたざわつき出した。

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