第三話 エレーヌからの告白

「地球の軍隊では信じられないと思いますが、魔法軍では仲が良いほど戦果を上げやすいのです。

 二人以上で使う連携魔法や合体魔法は、親密度が高いほど成功率も威力もあがるんでね。

 ただし、チームで一緒に寝てもらうんで、チームは男女別々でね」

 シャノはまた淡々と話し続ける。



「このクラスは都合の良いことに男子生徒16人、女子生徒16人いるから、男女それぞれ4チーム作れる。

 まあ、そういう人数になるようにクラス決めの時から予め仕組んでおいたんだけどね。

 リーダーも決めろよ。

 指揮系統がはっきりした方が生存確率が高いから。

 では、チーム決め始め。

 今が16時だから、相談して18時までに決めてね。

 18時になったら、コック班が美味しい料理を振る舞うから。

 トイレに行きたくなったら俺に言って」


 そう言うと、シャノは後方に歩いた後あぐらをかいて目をつぶった。

 「まあ」が口癖なのだろう。

 多用している。



「はい、みんな、ちゅうもーく!」

 シリアスな場の雰囲気を壊すかのように、オトナリが元気な大声で言う。


「もうこうなっちゃった以上、シャノさん達と力を合わせて魔法軍を勝利に導くしかないと思うんだ。

 チーム決めをしよう」


 オトナリがリーダーシップを見せつける。

 来年二月にある生徒会長選の勝利は君のものだ。

 うちの高校で権力者になって学校中に忖度させるといい。


 そして、ああ、そうか、生徒会長選までに俺たちは地球に帰れないかもしれないんだとユウトは思った。


「不満だな!

 なんでこっちの世界に来てまでお前が仕切るんだ。

 俺に仕切らせろよ!」


 不良のアメフト部・中村雄大なかむらゆうだいが怒鳴りつけた。

 ナカムラはクラスで唯一髪を染めて茶髪にしている。


 しかし、教師が注意しないのは、ナカムラの親が学校に多額の寄付をしているからだという話をユウトはオトナリから聞いたことがある。


 ナカムラとオトナリは仲が良いはずだが、ナカムラは異世界に来てまで他人に仕切られるのが我慢ならなかったのだろう。


「じゃあ、ナカムラ君、選挙をしよう」

 オトナリは余裕しゃくしゃくの笑顔で言う。


 間髪入れずにオトナリは「ナカムラ君が仕切った方が良いと思う人は手を上げて」と言った。

 ナカムラといつもツルんでいる本田勝人ほんだかつとと藤原裕太ふじわらゆうたが手を上げた他は誰も手を上げない。


「じゃあ、僕が仕切った方が良いと思う人は手を上げて」

 他のクラス全員がさっと手を上げた。


 ナカムラは苦虫をかみ潰したような表情をしている。


「僕がリーダー役で決まりだな。

 チーム決めはドラフト制で決めよう。

 まず、男子4人、女子4人のリーダーを決める。

 そのリーダーが順番にチームに入れたい生徒を引っ張ってくる」


 オトナリは流石だ。

 将来の夢は政治家だと言うだけある。

 背は低いのだが、存在感がクラス一だ。


「リーダーは投票で決めよう」

 そう言うとオトナリは後方を振り返り、「シャノさん、紙と鉛筆、人数分あります?」とシャノに聞いた。


「ん、いいよ。

 事前に用意してあるから」

 そう言ってシャノは立ち上がり、前方に手をかざすと紙の束と多くの鉛筆が地面に現れた。

 魔法というヤツは何でもありだな。


「男子3人と女子3人まで、リーダーにしたい生徒名を書いてください。

 自分の名前を書いても結構です。

 人数が多い順にリーダーを4人決めます」


 そう言ってオトナリは紙と鉛筆を生徒たちに配った。


「シャノさん、今、何分経っていますか?」

 オトナリがまたシャノに聞く。


「手元の時計を見て。

 みんなが持っている時計の秒針を惑星ババロアの時間の流れに合うように調整しておいたから。

 修学旅行の時に腕時計を持ってこなかった生徒には魔法軍特製の時計を後であげるよ」


 シャノにそう言われてユウトが自分の時計を見ると、16時15分だった。

「もう、15分経っているな。

 急ごう。

 紙に書く制限時間はあと10分にしよう。

 誰にも相談せずに書いてね」

 オトナリが冷静に言う。


 ユウトは紙に以下のとおり書いてみた。

「男子

 1.音成駿

 2.坂上大吾

 3.黒沢太陽


 女子

 1.大曲萌子

 2.黒崎エレーヌ

 3.佐藤愛」


 ユウトが紙にユカの名前を書かなかったのは、これは人気投票とは違うからだ。

 ユカはアクティブだが、リーダータイプではない。

 どちらかというとサポート役で、優しく強い意思で周囲を見渡し、欠けているところのフォローに回ることがこれまでも多かった。


「タイムアップ!

 みんな、書けたかな?」

 オトナリはよく通る大きな声で言った。


 さてさて、チームリーダーは誰になるのやら?

 リーダーが誰になっても、ダイゴ・チャゲ・シマダとチームが組めるようにユウトは祈った。


 ナカムラはしごく不満そうに「あー、かったりぃ」とつぶやいていた。


 集計作業を何人かでやっている間、ユウトは尿意を催していた。

 うう、トイレに行きたいけど、最初のトイレは嫌だな。


 リーダー投票の結果は以下のとおりになった。


男子一位 音成駿

男子二位 黒沢太陽

男子三位 坂上大吾

男子四位 高橋悠斗


女子一位 大曲萌子

女子二位 吉野由香

女子三位 黒崎エレーヌ

女子四位 ハン・ソンイ


 ユウトは自分の名前が入っているのが意外だった。

 ユウトは知らないが、実は男子からも女子からも隠れた人気があるのだった。



「おい! 俺をリーダーにしろ!」

 クラス一の不良、ナカムラが怒鳴った。


「ええと、ナカムラ君は3票しか入ってないねぇ」


 オトナリがひょうひょうと言う。


「じゃ、俺はリーダー降りるよ。

 リーダーなんてかったるいし、四位に入ったユウトとチームを組みたいしな」


 そう言ったのは、ユウトの親友のダイゴだった。

「では、ダイゴアウト、ナカムライン」とオトナリが言った。


「私もリーダーなんて柄ではないし、辞退します。

 ごめんね」


 凛とした表情でそう言ったのはユカだった。

 ユカは笑顔だけでなく、すました表情も可愛いなとユウトは思った。


 ユカはリーダーしたくない気持ちもあったが、何よりモエコと組みたかったのだ。

 いつもクラスの決定には我慢しているから、この時ばかりは自分の言いたいことを言わせてもらおうとユカは思った。


「では、ユカアウト、女子五位のサトウイン」とオトナリがすかさず言う。



「んじゃあ、ドラフトを始めようか。

 リーダー四人でじゃんけんして順番を決めよう」


 バス落下以降の一連の事情が飲み込めず、深刻そうな顔をした生徒が多い中、オトナリがニコニコとした笑顔で言う。


「ちょっ、ちょっとタンマ。

 トイレ!!

 漏れそう!!」


 ユウトは尿意を我慢し切れずに言った。


 暗い表情だった生徒たちの表情が少しだけ明るくなり、クスリクスリと笑いが漏れた。

 ユカは自分のことのように赤面した。


「他にトイレに行きたい人はいる?

 恥ずかしがらずに今行っておいた方がいいよ」

 ニコニコとした表情を崩さず、オトナリが聞く。


「私も行きます」

 そう言ったのは、意外や意外、女子生徒のエレーヌだった。


 あぐらをして目を閉じていたシャノが立ち上がり、「ユウトとエレーヌ、トイレに行こうか。こっちに来い」と言った。


 シャノがユウトとエレーヌの額に手を当てると、シャノとユウトとエレーヌの三人はその場からふっと消えた。


「トイレは前方にある。

 ごめんな、部屋の構造が複雑で。

 万が一敵がこの養成所に攻めてきた時に攻めにくい構造になっているんだ。

 行っておいで」


 シャノが優しく言う。


 ユウトとエレーヌはトイレの方に歩いた。

 エレーヌが立ち止まる。

 どうしたんだ?


「ユウト君、私、ユウト君のことが好きなの」

 エレーヌが突然の告白をする。


 エレーヌは日本育ちの日英ハーフで、可愛くてクラスで人気があった。

 肩まで伸びた金髪で透き通った青い目をした美人で可愛いが、時々ダジャレを言う面白いところもあった。


「こんな時にごめんね。

 今言わないといつ言えるか分からないから」


「ええと、エレーヌ、俺は……」

 ユウトはユカのことが好きだった。


 他の女の子に告白されても、このことは譲るつもりはない。


「待って。

 返事は今はいいの。

 お互いに生き残ろうね」


「あ、ああ」


 突然の告白にユウトは慌てていた。


「では、トイレに行っトイレ」


 エレーヌは笑顔で言う。


 エレーヌのことだからこの定番ダジャレは言うと思っていたが、まさか告白の後に言われるとは思っていなかった。

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