第九話 敵襲

 その後も訓練は続き、魔法暦で9月になった。

 ユウトは激級や神級の攻撃魔法を、ユカは蘇生魔法を使えるようになった。

 シャノによると、神級の攻撃魔法や蘇生魔法を使える魔法戦士の数は五本の指で数えられるくらいだという。

 また、恋愛面では、ユウトの心はユカとエレーヌの間で揺れていた。

 ある日の昼下がり、クラスに緊急招集がかけられた。


「緊急招集って、なんだろうな。

 今までこんなことなかったのに」

 ダイゴが疑問を口にする。


「地球にみなさんをお返しします、とかだったらいいな」

 シマダが冗談を言う。


 しかし、シマダの冗談はハズレではなかった。


「今日、みんなを呼んだのは、みんなは自由を得たという理由からだ」

 シャノがそう言うと、生徒たちは「どういうこと?」と疑問を口にしあい、ざわつき始めた。


「地球人を拉致したことが宇宙警察に知られてしまった。

 よって、みんなを地球に返さなければいけなくなった」


 生徒たちから喜びの声が上がる。


「また、戦況も大きく変化した。

 アルエという中立の立場の魔術師(拙作『星に帰る?』参照)が開発した音楽兵器が力を発揮してね。

 音楽兵器から出る魔粒子によって、魔法軍も科学軍も戦意を喪失してしまったんだ。

 戦争を続けようとする科学軍のリーダーも内紛で討たれたようだ。

 もう、みんなは戦わなくていい」


 喜びの歓声が大きくなっていく。


「準備をして一週間後、宇宙船でみんなを地球に返す。

 関係者の記憶は操作しておくから、今までどおりの生活をこれから送れるはずだ。

 ここでの生活のことは秘密にしておいてもらうけどな。

 みんな、これまで本当にすまなかった。

 これから楽しい生活を地球で送ってくれ」


 シャノはゆっくりと言葉を噛みしめるように話し続けた。




「これで僕たち、地球に帰れるんだな。

 地球に帰ったら、高3の7月みたいだから、受験勉強のシーズンだね。

 頑張らないと」


 チャゲが真面目に、でも嬉しそうに顔をほころばせながら言う。


「受験なんて嫌だ、嫌だ。

 こっちでの生活の方が良いかもな」

 ダイゴもそう言っているが、地球に帰れることが嬉しそうだ。


 ユウトも地球に帰れることは嬉しいが、最強に近い魔法の能力を失くすことが惜しくもあった。

「地球でも魔法を使えたらいいのにな」

 ユウトは少し寂しそうに言った。




 地球に行く前に、ユウトにはすべきことがあった。


 夜、誰もいない廊下にユカを呼び出した。

 ユウトとユカ、二人の胸に緊張が走る。



「ユカ、俺はユカのことが好きだ。

 誰よりも」


 ユウトは力強く言った。


「笑った顔もすました顔も好きだ。

 優しいところも、これと決めたらまっすぐなところも好きだ。

 付き合ってほしい」


 ユウトの告白にユカの頬が赤らむ。


「もちろん!

 私もユウト君のことが大好き!」

 弾けるような笑顔をユカは見せた。


「地球に帰ったら、ユウト君としたいことがたくさんあるの」

「俺もだよ、ユカ」


 セブンによる見回りが来るまで、二人は仲睦まじく話し込んでいた。



 そして、翌日の朝、エレーヌを呼び出し、「俺はユカが好きなんだ、ごめんな」と話しておいた。


「そう。

 私の告白でユウト君を迷わせ悩ませてしまってごめんね。

 簡単には吹っ切れそうにないけど、次の恋に向かうね」


 エレーヌはとても残念そうだった。


 ユウトもエレーヌにこれを言うのは身を切る思いがした。



 これで、ユカとの楽しい地球ライフが始まる――はずだった。




 地球帰還予定日の前日、帰還を祝してパーティーが開かれた。


 サトウたちのバンドが演奏して盛り上がったり、豪華な料理が振る舞われて舌鼓を打ったり、楽しいパーティーだった。


 そこへ――。


「火炎放射!」

 兵士が手に持った円筒から爆炎が放射される――!


「敵襲!

 科学軍だ!!」


 非常サイレンが鳴り響く中、生徒たちは混乱して逃げ惑っていた。



 ナカムラのもとにも一人の兵士が――。


「雷電放射!」

 兵士が円筒から電撃で攻撃してくる。


 これ以上電撃を浴びると、ナカムラのアーマーが持たない!


「くっ、炎鞭フレイム・ウィップ!」


 しかし、ナカムラの放った炎鞭の鞭が巻きついたのは、科学軍の兵士ではなかった。


 木口君だったのだ――!


 ナカムラは木口君を身代わりにして逃げる作戦を立てていた。


 木口君は炎鞭で身動きが取れない。


「火炎放射!」

 紅蓮の炎が木口君を襲う。


ピチベの哲学ポジションチェンジ!」


 その時、木口君の唱えた特殊魔法は近くにいる対象と位置を交換するというものだった。




 ナカムラと木口君の位置が入れ替わる――!


「ぐっ、うぉぉ……」


 ナカムラは爆炎に包まれ、炎が消える頃にはすでに息していなかった。




「神・雷撃!」

 ユウトの放った雷撃によって、科学軍の兵士たちが次々に倒れていく。


 ユウトやシャノたち教官の活躍によって科学軍の兵士たちは退けられた。


 ユウトは辺りを見回す。

 ユカがいない!!

 ユカは科学軍に連れ去られたようだった。

 ユカが蘇生魔法を使えることを、戦争を続けたい科学軍の一派が突き止め、科学軍リーダーを蘇生したいために連れ去ったのだろうとシャノが説明した。


 ユカを連れ戻さなければ!


「科学軍からユカを連れ戻すために、俺と一緒に科学軍の拠点に乗り込む奴は挙手しろ」


 シャノが生徒に手を上げさせると、ユウトが真っ先に手を上げた。


 ユウトが手を上げると、ダイゴとシマダも手を上げた。


「ユウトが行くなら俺たちも行くよ」

 ダイゴが優しくつぶやいた。


「ユウトもユカも友達だからな」

 シマダが暖かく同調する。


 少し間を置いて、「…じゃあ、僕も」と手を上げたのはチャゲ。


「戦闘は怖いけど、ユウトたちが心配だから」

 チャゲがうつむきながら言った。


 次に手を上げたのはオトナリだった。


「今回の襲撃でナカムラが亡くなった。

 ユカの蘇生魔法があればナカムラを生き返らせることができる。

 あんな奴でも生きていてほしいんだ!」


 オトナリが咆哮する。


「私も行く!

 ユカを見捨てることなんてできる訳ない!!」

 モエコが叫んだ。



「他に行く奴はいるか?」


 シャノはそう言ったが、他には誰も手を上げなかった。

先ほどの実戦で戦争の現実を知ったのだろう。


 皆、命が惜しかった。


 そして、シャノ・ミント先生・セブン・ユキ・ユウト・ダイゴ・チャゲ・シマダ・オトナリ・モエコの10人によるユカ救出隊が結成された。

 残りの教官は戦士養成所を警護することになった。

 養成所の周辺は空間跳躍禁止の結界が張られている。

 ユカをさらった連中はまだ遠くには行っていないはずだ――。



「じ、自分は行かないのにこう言うのも気が引けるけど、ユ、ユカを救ってくれ」


 実戦のショックからだろう。

 声を震わせながらクロサワが言う。



「僕からも頼みます。

 ナカムラが死んだのは僕のせいでもあるから」

 木口君も言い添えた。


 ユカ、待っていてくれ。

 ユウトの目はまっすぐに前を見つめていた。

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