第六話 百万人に一人の才能

「まず魔法は、三つの種類に分けることができます」


 ミントがそう言うと、正面にあるホワイトボードに次の文字が誰の手も使わないでひとりでに書かれた。


 1.攻撃魔法

 2.回復魔法

 3.特殊魔法


「二人以上で用いる連携魔法や合体魔法もありますが、一人で用いるのはこの三種類です。

 攻撃魔法は訓練して魔法石を使えば、誰でも使えるようになります。

 回復魔法は素質によりますね。

 そして、特殊魔法も素質によるのですが、自分の心臓に誓約し、魂と契約することで大体一つから二つ使えるようになります。

 こんなふうに」


 ミントは目をつぶって胸に手を当てた。


「̩̩一つのメルヘンフローラル・ウインド!」


 次の瞬間、教室が花の甘くていい匂いで満たされた。


「これが私の特殊魔法です。

 この匂いで満たされている空間では、体力が回復していきます。

 特殊魔法は強力ですが、魔法石のエネルギーをかなり消耗するので、使いどころに注意が必要ですよ」


 17才にしては幼い顔をしたミントが、可愛いロリ声で講義を続ける。


「次に攻撃魔法の三要素について」

 ミントの言葉の後、ホワイトボードに次の言葉が書かれた。


 1.属性

 2.形状

 3.等級


「属性には、炎・氷・雷・風・聖・邪・光・闇などがあります。

 形状は、撃・破撃・舞撃・波撃・拳・剣・槍などがあります。

 形状によって、発動時間・効果時間や効果範囲が異なります。

 みんなで研究してみてください。

 今からやる私の行動を見ていてね」


 そう言うと、ミントの手の上に木片が空間跳躍で現れ、ミントはその木片を右方に投げた。


「小・風撃!」

 ミントの手から風の矢が放たれ、木片が真っ二つに割れた。


「今、魔法名の前に「小」とつけたのは、等級です。

 小中大、ありますが、中の場合は魔法名の前に何もつけません。

 大よりも強力な激や神しんもありますが、そこまで使いこなせる戦士はめったにいませんね」


「質問です!

 攻撃魔法は誰でも使えるようになると言っていましたけど、どんな三要素のものでも使えるようになるんですか?」

 オトナリが手を挙げて快活に言った。


「質問ありがとう、オトナリ君。

 そうね、攻撃魔法は特訓すれば誰でも使えるようになるけど、人によって向き不向きがあるから、炎属性に長けている人もいれば、氷属性に長けている人もいるし、使える形状や等級もマチマチよ」


 その後もミントによる講義は続いた。

 学校ではいつもふんぞり返って授業を聞いていないナカムラも、一番後ろの席で熱心に聞いていた。

 将来の自身の生死がかかっているからだろう。


 講義が終わり、オーガの丸焼きが出た昼食後、B組の生徒は一か所に集められた。


「これから実技の授業だ。

 実技の時間は着替えてもらう。

 バトルスーツを支給するから、更衣室で着替えてこい」


 シャノの言葉の後、生徒は男女に分かれて更衣室で制服を脱いでバトルスーツを着た。


 バトルスーツはロボットアニメでよくあるようなパイロットスーツに似ていた。

 更衣室から出てきた女子たちを見てユウトはびっくりした。

 胸が強調されるようなセクシーな格好だったのだ。

 ユカを見た時、ユウトは興奮してしまった。

 大きな胸が強調されて、可愛い、可愛いよユカ。


 ユカは身体の輪郭が強調されるこの服装が恥ずかしくて頬を赤らめた。


「なんとかならないのかな、この格好」

 隣の真里と困惑気味に話していた。


 ユウトは押せるボタンがいくつかスーツについていることに気付いた。

 なんだろう、このボタン。

 分からないものは、取りあえず押してみよう。


 その瞬間、ユウトの身体が宙に浮かんだ。

 空中でバランスが取れずに、また地面に落っこちた。


「イテテ……」


 尻もちをつくユウトを見て、シャノが生徒たちに言う。


「フライングした奴もいるが、まだこのボタンは押さないでな。

 空中浮遊できる他、様々な機能がある」


「さあ、訓練場へ向かおう」


 シャノに案内されてユウトたちは学校の体育館の3倍はある訓練場にたどり着いた。



「ユウト、スーツのチャック空いてるぞ。

 相変わらずのボケボケぶりに、シマダは嬉し泣きのウレシマダ」


 シマダが軽口を叩く。

 えっ、じゃあ、さっき宙に浮かんで注目された時、空いているチャックにも注目されたのか。

 おーまいがっど。



「ここからは、チームごとに教官がつく。

 この教官は、来年に派遣される戦地では各チームの隊長でもある。

 では、各チームごとに訓練を始めよう」 


 シャノがそう話すと、シャノの他に7人の教官が空間跳躍で現れた。


「ユウトチームの教官は俺だ」

 シャノが教官か。

 あそこにいる巨乳のグラマラス美人の教官が良かったな。

 なんて冗談。


 一緒に過ごして一日しか経っていないけど、シャノなら教え方が上手い気がする。

 午前中講義をしていたミントはエレーヌのチームにつくようだった。


「ユカちゃん、真里ちゃん、モエコちゃん、よろしくな」

 ユカチームについた教官はホーク族の有翼種・セブンだ。

 ユキは教官でも隊長でもない立場だが、一緒に指導に当たるという。

 ナンパなセブンのお目付け役でもあるのだろう。


(魔法の才能が既に探知されているユウトとユカは手厚く教える必要がある。

 だから、ユウトは戦士養成所リーダーの俺が自ら、ユカは二人がかりで教える。

 チーム分けでユカチームにユキがついたのは好都合だ。)

 シャノの目が鋭く光る。


 そうして、生徒たちは実技訓練に入った。

「魔法石をこれから渡す。

 この石で魔法が使えるようになる」


 ユウトたちはシャノから魔法石を手渡された。

 ツヤツヤと光沢がある黄色と茶色の縞模様の小さな石だった。


「魔法を出すコツだがな。

 精神を集中して出す魔法をイメージして魔法石に向かって念じるんだ。

 このように」


 シャノが魔法石を握りしめて念じると、手から炎が出て一瞬で消えた。


「やってみな」

 シャノの目は今、真剣だ。


 それから小一時間、シャノに教わりながらユウトたちは炎を出す訓練に取りかかった。

 なかなか炎が出ない。


「あっ……!」

 ユウトの手からマッチほどの火が出て消えた。


「ユウト、すげーな」

 ダイゴが目を見開いて驚きながら言う。

 チャゲとシマダも目を見張った。


「コツとかあるのかい?」

 チャゲが聞く。


「うーん、魔法石に向かってムンムンムン、スースースーみたいな感じで頑張って念じると炎が出るよ」


「それじゃ分かんねぇよ!」

 シマダがツッコむ。


 そうして、訓練が終わる夕方になる頃には、ユウトの手から1メートル四方の炎が出るようになった。


(普通、マッチくらいの炎でも出すようになるのに一週間かかるのに、こいつはすげーな……。

 百万人に一人の才能という諜報部の報告は嘘じゃなかった。)


 シャノがそう思いながら、セブンとユキに教わっているユカチームの方を見やると、ユカが30センチメートル四方の炎を出していた。


(ユウトとユカは将来有望すぎるくらい有望だ。)


「ユカちゃん、やるな」

 シャノだけでなく、セブンとユキもユカの才能に驚嘆していた。


 この日、炎が少しでも出たのはユウトとユカだけだった。



 訓練後、夕食のための食堂に行くと…


「ケッ、この辺りは朝鮮くせぇぜ!」

 先に座っていたソンイたちのチームを見てナカムラが吐き捨てた。


「ナカムラ!

 謝りなさい!」


 そばにいたモエコが怒る。


「うっせぇ、朝鮮菌がうつる、うつる」

「日本人とか韓国人とか、そんな理由で暴言を吐くなんてどうかしてるわ!」

「はいはいはい、モエコちゃんは良い子ちゃんでちゅねぇ」


 その後もナカムラとモエコの喧嘩は続いた。


 ソンイは何も言わずにただただ悲しかった。

 たとえ○○人であっても、同じ人間であることには変わりないのに……。


 その一方、木口君は誰の隣にも座れずに一人でポツンと奥の方で坐っていた。

 それを見たユカが「木口君、嫌じゃなければ一緒に食べよう」と言ってユカチームの四人で木口君の隣に座った。

 ちょっと羨ましいぞ、木口君。


 夕食後、部屋に戻ってユウトが「ソンイ、可哀そうだったな。ナカムラが許せないよ」とチームに投げかけた。


「そうだな。

 でもさ、俺たちも人のこと言えないぜ。

 差別する意識は多かれ少なかれ誰だってある。

 ユウトだって知らずのうちに誰かを差別しているんじゃないか。

 例えばホームレスやデブやゲイ」


 ダイゴがもっともらしいことを言う。


「そんなことはない……!

 もし万が一そうだとしても、本音がどんなに汚かったとしても、俺たちは善くあろうとすることができるはずだ!」


 ユウトが思っていることを話す。


「馬のフンよりもクッサー。

 でも正論だな。

 んー、思っていても口に出すか出さないかで違うんじゃねーの」


 シマダが言った。


 その後もダイゴとユウトの論議は続いたが、


「もう今日は寝ようよ。

 魔法を使おうとするのは肉体的にも精神的にも疲れるよ。

 明日に備えよう」


 チャゲがそう言ってお開きになった。



 今日で養成所二日目だが、軍隊生活の厳しさを想像していたユウトにとって、指導は厳しくあるもののそこまで厳しくなく、楽しさの方が勝っていた。

 服や消耗品で欲しい物も、オシャレだったり良品だったりする物が養成所側から支給された。

 魔法軍の大人たちに大切にされているということをユウトたち生徒は感じていた。


 ベッドでユウトはユカではなくエレーヌのことを考えていた。

 愛らしくウインクしてきたエレーヌが思い浮かぶ。

 あの可愛いエレーヌから告られたんだ、俺は。

 エレーヌとキスをする自分を想像した。

 その先の想像までしてしまう。

 いかん、いかん。


 俺はユカのことが好きなんだ。

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