笑い声が聞こえる

陽月

笑い声が聞こえる

 私の実家のある地域では、土葬でした。さすがに今は火葬を併用していますので、「でした」という表現になるのですが、そうなったのも私が高校生くらいの時だったと思います。

 これは私が小学校低学年の時の話で、当時は普通に土葬でした。

 死者を棺桶に入れて三昧さんまいに運び、深く掘った穴に埋めるのです。そして、埋めた後で卒塔婆を建てます。

 今は火葬と併用と言いましたのは、火葬した遺骨を三昧に埋めてそこに卒塔婆を建てているためです。おかげでずいぶんと穴掘りが楽になったと聞いています。

 墓石は墓石で別の場所にあります。道からお寺へと続く短い坂を上り、お寺の奥に墓石のある場所があります。そして、その奥の山の中に三昧があります。

 お盆のお墓参りでは、墓石の所にもお参りしますが、三昧にもお参りします。その時に、どこに誰が埋まっているという話も聞かされていましたので、「幽霊はお墓(墓石)にはいないよな。いるとすれば三昧だよな」という感覚です。

 亡くなってから四十九日までの七日毎のお参りも三昧の方で行われていますし。


 私の通っていた小学校は、水曜日は四限までで一斉下校という制度がありました。一斉下校は一年生から六年生までが通学班でまとまって下校するというものです。なお、朝は毎日通学班での登校です。

 私の通学班は小学校からその方角では最も遠い上に、人数が少なく、たった七人でした。それも途中で分かれ、四人になってから三昧からお寺の横を通って帰るのです。

 横とは言いましても、三昧は山の上、私たちは山を登っていく道を通っていますので、実際には高さに差がありますし、木々があって道から三昧を見ることはできません。さすがに、お寺はちらっと見えるのですが。

 ですので、普段はこの向こうに三昧があるなどということは気にしていませんでした。一人で帰っている日でも。


 ある日の帰り、三昧の横を通っているときに、子供の笑い声が聞こえてきました。

 どこからかと思えば、どうも三昧の方から聞こえてくるのです。一斉下校の日で、この地域の小学生はたった四人ですが、全員が一緒にいます。

 不気味に感じたものの、途中でお寺の方へ寄り道をし、三昧まで行ってみる勇気はなく、家へと帰りました。

 翌日は、朝も帰りも何事もなく、それからもしばらくは何事もありませんでした。

 けれども、ある日再び笑い声が聞こえてきました。それからも、たまに聞こえてくることがあり、考えてみると、笑い声が聞こえてくる日は決まって水曜日でした。それも、晴れている日は何事もなく、曇りか雨の日には聞こえてくるのでした。


 条件が限定的だったこともあり、聞こえてこない日が続くと忘れてしまっていました。

 いつの間にか曇りか雨の水曜日でも聞こえなくなっていたのですが、そういえばと思いだしたときにはもう、聞こえなくなってからずいぶんと日が経っていたのでした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

笑い声が聞こえる 陽月 @luceri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ