第10話 降らそう

「ラボ先輩?」

 ん? 日ペンがラボ先輩の名を呼んだ。見ると、ラボ先輩は空を見上げている。雪が降ってきそうという事なんだろうか?

「降らそう」

「はい?」

 ラボ先輩は今「降らそう」と言った。それって雪を降らすって事だろうか。俺には魔法部に関係の無い人に影響が出るからダメだって言ったのに。

「……そうね、やりましょう」

 えーっ? 副部長まで賛成ですか?

「いいんですか? 他の人たちに影響出るんじゃないんですか?」

 俺は慌てて二人に聞いた。

「今日のここの天気は雪だったはずなのよ。それなのにまだ降っていない。それならば私たちが降らせてもそんなには影響無いと思うわ」

 雪を降らす魔法なんてどうやってやるんだろう? 俺はまだ、テストのヤマが当たれとか、焼きそばパンがゲット出来ますようにとか、その程度の羊羹魔法ぐらいしかやった事が無い。それだって、魔法なんて言ってるけれどただの偶然だろうとも少し思っている。雪なんて降らせられるかなぁ……。

 副部長とヅカ先輩が何やら話をしている。

 まだ降っていなくても、いつ降って来てもおかしくないような曇り空をしているなら、羊羹魔法でも何とかなるかもしれない。

 けれど空を見上げるときれいな冬晴れだ。偶然で何とかなるような空じゃない。俺たちの地元、常滑よりはずっと寒いけれど雪のゆの字も無い空気だ。

「はいショタ、手を繋ごう」

 空や遠くの雲を見つめていた俺に柔らかいヅカ先輩の声が聞こえた。

 ヅカ先輩の右手が俺に差し出される。見ると、ヅカ先輩はすでに左手を副部長と繋ぎ、副部長はヅカ先輩とラボ先輩と繋ぎ、ラボ先輩はもう片方の手で日ペンと繋いでいた。

「はい、私とも繋ぐのよ!」

 日ペンが催促する。俺が日ペンと手を繋ぎ終えると『かごめかごめ』でもするかのような手繋ぎの輪になった。

「これから雪を降らせる魔法を起こそうね」

 副部長ではなく、ヅカ先輩が指揮をとる。

「目を閉じて、雪が降ってほしいと願うさ。雪、生で見てみたいよ。私たちの想いの力で雪を降らせようさ」

 俺も頭の中で『雪が降ってほしい』『雪が降ってほしい』と願った。

 ヅカ先輩の喜ぶ顔が見たい。雪よ降れ、雪よ降れと思いながら雪の中をヅカ先輩と駆け回る妄想が俺の脳内劇場の中で始まった。

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