第11話 雪


 時間にしてどれぐらいだろう? 案外短かった気がする三分ぐらいだろうか。ふと、頬に冷たい感触受けた。気のせいか? と思った直後には耳元でサリッとかシャリという音とともに、やはり冷たい感触がする。

 早く確かめたくて閉じていた目を開けると雪も雪、大粒の雪が大量に降っていた。

「雪だ!」

 皆ももうすでに目を開けて周りを見渡していた。繋いでいた手も離し、それぞれ手を広げて雪を受けている。

「これが雪ね」

「そうです、これが雪です」

 “これが”なんて偉そうな事を言ったが、俺だってこんな凄い雪を間近で見たのは初めてだ。こういうの何って言うんだったっけ、ぼたん雪? 粒が大きくてどんどん積もっていく。

「ようけ降ってきたな」

 地面だけじゃなく、皆の頭や服にも積もっていく。

 俺はそこらじゅうの雪を集めて少し大きめの雪球を作った。そして小さめのも一つ。それを重ねてミニ雪だるまにしてヅカ先輩に見せた。

「わぁ、可愛いね」

 ヅカ先輩が笑ってる。楽しそうだ。ああ、寒いけれど俺の心はぽかぽかだ……。

「みんなー!」

 浸りだしていたところ、副部長が叫んだ。

「何ですか?」

「やばいわよ。天気予報とニュースをチェックしてみたら、ここだけじゃなくて名古屋の方でも雪だって。下手したら、常滑でも降ってるかもしれない」

「それはかんな、はよ帰らな」

「えーっ、まだ着たばかりじゃないですか。しかも雪も降らせたというのにほとんど遊んでないないのに」

「何言ってるの、電車が停まったら帰れなくなるのよ。せめて名古屋までは帰らないと」



 俺たちは、せっかく何時間もかけて高山にきたというのに、そして雪まで魔法で降らせたというのに、滞在時間わずか三十分弱ほどで帰路につくことになった。

「この辺りはさすがに雪に慣れてるから、これぐらいの雪じゃ運休にならないし遅れもほとんどしないのね」

 南下していっているけれど、雪は止むことなく降り続けている。副部長が言った通り、名古屋や常滑でも降っているのかもしれない。

「けれど名古屋辺りは心配ですね」

「そうね。今、化学先輩にメールしたらやっぱり常滑でもチラチラだけど雪が降り出したって。それでね、もし名古屋で電車が停まっちゃったら名古屋駅までなら車で迎えにきてくれるって」

 俺たちはあんなに雪を求めていたのに、「まだ止まない」「電車停まらないかな、大丈夫かな?」とドキドキと心配しながら地元に向かった。

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