第9話 高山

 あの時に日ペンがスマホで調べた時間と同じように常滑を八時台出発になった。

「じゃあまず、名古屋を目指すわよ。そしてそこからが本番」

 部長のヅカ先輩じゃなく、しっかり者の副部長が仕切っている。副部長は休みの日でもおさげみつあみのようだ。ヅカ先輩はふわふわモコモコの女の子らしい上着を着ていて可愛らしさがいつも以上だ。

 学校は休みになったものの、社会人は仕事のようで八時台は通勤ラッシュで満員だった。東京のラッシュはもっと凄いんだろうけれど俺たちにとっては、このラッシュでも大変だ。

 いつも学校に行く時はこんなにも混まない。さすがに名古屋に向かうとなるとそれなりだったようだ。

「ふぅーっ、疲れたね」

 やっと名古屋に着いたと皆、本格的な旅が始まっていないのにくたびれている。

「さて、こっから途中の乗換駅である多治見を目指すためにJRの太多線のホームまで行くわよ」

 副部長を先頭に、俺たちはぞろぞろと名古屋の地下街を歩いた。俺たちが乗ってきた名鉄の改札を出てからJRの乗り場までは結構ある。同じ名古屋駅だが新名古屋駅とノーマル(?)名古屋駅とではすんなり乗り換えとはいかないのだ。


 名古屋駅で太多線に乗りかえて始めの頃は名古屋ほどでは無いにしても都会感のある風景だったのが進んでいくにつれ、どんどん木々が増えていく。


 途中の美濃太田というところで乗り換えてからは、いつ雪が降ってくるだろうかと皆して窓のを眺めていたけれど、その気配はまったくないまま高山に着いてしまった。

  トンネルを抜けるとそこは雪国だった……という感じに駅の構内から出たらもしかしてと思ったものの雪は降っていない。前に降った跡も見当たらなかった。

 テレビで暖冬だ、暖冬だと言っていたが、まさかまったく雪が降っていないなんて思わなかった。

 せっかく七時間ほどもかけてきたのに。

「どうします?」

 俺の誰ともとわない問いに一同、副部長を見た。

「ラボはどう思う?」

 副部長は、自身の意見を言う前にラボ先輩に意見を求めた。ラボ先輩もどうしていいのか、無言のまま腕組をしている。

「もっと北の方に行ってみるというのはどうですか?」

 副部長もラボ先輩も何も言わないので俺が提案してみた。

「北ってどこよ」

 日ペンの突っ込みが入る。

「わかんないけどさ、もっと北の寒いところ行ったら降ってるかもしれないじゃないか」

「これ以上遠くへは行けないわ。今日中に帰れなくなっちゃう」

 じゃあどうするっていうんだろう。せっかくヅカ先輩に雪を見せてあげたかったのに。ヅカ先輩の喜ぶ顔が見たかったのに……。

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