第2話
バイト先と思われるコンビニの駐車場に車を停めて文香の携帯にコールする。
「もう着いたの?早い(笑)」
「信号全く引っかからなかったんだよ。ここからどう行けば良い?」
「直ぐ行くからそこにいて!」
「夜だし危ないから近くまで行くよ」
「いや超近いんだって(笑)」
「じゃぁ来て(笑)」
通話を切って3分も経たないうちに文香が肩から腕を突き刺すように深く上着のポケットに両手を突っ込みながら近付いて来た。
ヒト目を憚らずに浮かべる満面の笑みは一般的な女性が男性に向ける色のあるソレではなく、紛れもなく男女を意識しない同級生に向けられた素に近いカジュアルなモノだ。
この何てことのない笑顔にさえ相手がココまで魅せられるということを当然本人は知る由もない。
と言うより、そもそもコイツは自分のことを可愛いという自覚も無さそうだ。
普段から男まさりな印象が強いせいか草食気味であったり小心な男子からは近寄り難い雰囲気はあるのだが、隠れファンが多くいるという情報もちらほら耳にしていた。
僕からすれば同じクラスなんだから普通に喋ってみろよと思うのだが、気が強く冷たく蹴散らしそうな感は確かにある。
だがこうやって2人で会うとやはり1人のオトナになりかけた女性そのものだった。
夜更けの車内という密室が2人の秘密を更にムーディーに仕上げてくれそうな期待を煽る。
文香が車内に乗り込むや否や閉じた膝をつま先で上下に小刻みに揺らしながら言う。
「ってか寒過ぎ。おしっこ行きたいかも…」
「行って来なよ。 ついて行ってあげよっか?(笑)」
「バカでしょ、1人で行けるっちゅーの」
コンビニのトイレに駆け込む文香を、結局深夜にバイト先付近をうろつこうが実際のところどっちでも良いのではないかと目で追いながら思う。
いい加減なヤツだ。
文香が車へ戻ったのと合わせて少し暖房を弱めた。
「どこ行くの?」
「遠くがいい?近場がいい?」
「じゃぁ近くで(笑)」
「どこかへ連れてけって感じじゃないのね(笑)」
「さすがに眠くなってから直ぐ帰れるところの方がお互い良いでしょ?」
「そうだね、オレも運転に神経使わず喋ってられるし」
車を出して城の跡地が観光スポットとなっている大きな河川沿いの公園へ向かった。
だだっ広い駐車場は深夜にも関わらず解放されており、僕らのような男女2人組のカップルなんかかが車を停めては長く動かなくなる。
300台近く駐車出来そうなスペースにいつ訪れても4,5台の車が常に車内に微かな灯りを灯している。
「ここでいい?結構使えるんだよね、ここ」
「え、ここ?何か外から見たら車の中で何かしてるみたいじゃん…」
「余所にする?」
「出来れば…」
車を再び出し、城の麓の公園の前へ移動した。
日中は売店が立ち並び、自販機がズラリと並ぶため社内も真っ暗にはならない。
「ここならエッチな雰囲気じゃなくなるでしょ?」
「さっきよりはそうだけど…」
「何か温かいモノ買ってくる。お茶でいい?」
「ありがとう」
2人で会うとこんな感じなのか、文香の口数が心なしか減っているのが若干気になりながらも、温かいお茶を買って車内に戻った。
「こうやって2人で会うと不思議な感じするね(笑)」
「私絶対変なことしないよ?(笑)」
「いいよ、そんなつもりで来てないし。ってか雰囲気に弱いね?」
「いやいやいやいや、そういうの苦手だからマジやめて。ってか恥ずかしいから2人の秘密にして(照)」
「仕方ない。大丈夫だよ口軽いけど(笑)」
「軽そう(笑)」
「軽いけど約束したことは守るから大丈夫(笑)」
「じゃぁお願いします…(頼)」
僕達は車内に並んで座りながら学校生活での懐かしいエピソードを振り返ったり、ここ最近のクラス内での人間関係の話題で時間を忘れて盛り上がっていた。
やはり共通の話題が沢山あると話が尽きず楽しいし、何より相手は皆の憧れる文香だ。
僕自身も下心無く楽しんでいるし、こういう関係が続いて特別な間柄にでもなればその方が良いと思えた。
2人での秘密というのも希少な感じがするて尚良い。
秘密を共有し合うことが後に唯一無二の信頼関係にでも発展すれば良いのにと、そんな期待の方が上回っていた。
「ってかサチに告られたりしなかった?」
「オレ?そういう話って何で皆に知れ渡るの?スクープかよ」
「泣いてたよ」
「オレにだって自分の意思で応じる権利はあるでしょ」
「可愛いじゃん」
「でも確かに、入学した頃可愛いなって思ったことはあったかも」
「じゃぁ良いじゃん(笑)」
「もう半年前の話だしね」
「何があったの?」
「やっぱ文香さんもこういう話題好きなの?(笑)」
「女子だもん(笑)」
「…学際オレも顔出しに行ってたじゃん?あそこで久々にサチにも会ったから連絡先交換してたの」
「うんうん」
「オレらは昼過ぎには引き上げて他でまた遊んでたんだけど、夜帰りに電話してみたら家で暇してるって言われたので、」
「それで?」
「こうやって車で会って喋って、その帰りに電話が掛かってきて『付き合ってください』って」
「返事は?」
「『ごめん、無理!』って」
「ひっでー」
「だって2人で会って喋ってた時、オレ風邪拗らせてて鼻が詰って辛かったのを、あの子鼻の先摘まんで来て遊んだりしてカチンと来ちゃってたんだよね」
「何だそれ、ウケる(笑)」
「だってこっち必死だし、落ち着けようとしてるのにくしゃみ止まんなくなったりするじゃん」
「え、それが理由なの?(笑)」
「いや、さすがに直接的な理由とは違うけど。ただあんなムードも何もない状況でこっちもどうも思わないでしょー」
「確かに(笑)」
「あの流れで逆によく告れたなってところの神経を疑ってだな…」
「分かった、分かった。もう続けないで。私も本人にも毎日会うしそれ以上その印象濃くしたくない(笑)」
「最後まで聞けよ、自分から聞いておいて(笑)」
「続きがあるの?」
「いや、終わりだけど(笑)」
「何だよ(笑)」
「でもそれを文香さんが知っちゃってるのか。クラスで何か言ってたの?」
「いやいや、女子だけだと思うよ。『城西くん酷いね』って言ってた(笑)」
「ってか待って。クラスで話題になるってもしかしてコレのこと?」
「全然、もちろんコレだけじゃないけど、こういう話はインパクトあるし印象付きやすいでしょ(笑)」
「…貰い事故感(笑)」
「いちいち酷い(笑)」
話は尽きない。
逆に文香の浮いた話はというと、直近で1つ下のオトコ2人が競って張り合うように交際を申し出て来て、その内の嫌いじゃない方と付き合いはしたものの、1回ヤッたくらいのところでクリスマスを超蔑ろにされたことに腹が立ってそのまま別れたらしい。
仲の良いオトコ同士で恋敵とかバカだなと思いながら、文香に対してもあんなしょうもないガキで良かったのかよと少しガッカリもした。
何方も僕が留年した翌年にクラスは違えど一緒に過ごした間柄ではあった。
ある意味そう悪ノリして目立ちながらも、学生生活を楽しむくらいの方がネタとしては後々面白く振り返ることが出来るのかも知れないと思いながら、自分もヒトのコトが言えるだろうかと考えるのを止めた。
1月の深夜ということもあり外気は寒波の影響で凍てつくような寒さで身を縮めるようであったが、話が盛り上がったついでに外を少し散歩しようと文香に打診すると嫌な顔を見せず応じてくれた。
僕のダウンの方が防寒性が高いと考え文香にそれを着せて外へ出た。
元々僕は夏の暑さや冬の寒さへの耐性は強い方で、特に楽しくなっている場合などは服を脱いでも平気なタチなのだ。
何より必要以上に「暑い」だの「寒い」だのを連呼して場の雰囲気を重苦しくする類いの人間が大嫌いだ。
とかいう思いは持ちながらも並んで歩く分には寒さを生かしたいのでしっかりと身を寄せながら肩をぶつける。
「何?(笑)」
「雪山で遭難しそうになってくっついて暖め合うシーンあるじゃん?」
「ってか寒いんじゃん(笑)」
「いや、寒さや暑さには本当に強いんだけど何となく(笑)」
「何となく(笑)」
「じゃぁこうしよう」
「⁉︎」
僕は文香の手を握り適度に距離を縮めながら歩き始めた。
小柄な文香の小さな手が僕の掌をしっかりと握り返す反応から、何もさせないと順序の問題で強く牽制して見せていたはものの僕個人に対して拒絶反応を示していたわけではないのだと捉えた。
時折り肩を竦めて寒がって見せながら、いつしか僕のジャージのポケットの中に繋いだままのその手を突っ込み、腕が触れるくらいの距離を自然に保ちながら、ただただ歩いた。
取り留めもない会話も文香と外で2人っきりということもあり気分は高まる。
この非現実感をどうにか自分の退屈な日常と代えられないだろうか。
そう思いながら会話を続ける。
「文香さんさ、普段は結構やんちゃな男子並みに元気じゃん?」
「え?」
「でもやっぱ女子だな(笑)」
「何それ?(笑)」
「さっきカーSEXしてそうな車が沢山停まってる駐車場入った時急に無口になった(笑)」
「やめて、恥ずかしい…(照)」
「オレ相手にドキドキするわけでもないだろうに(笑)」
「そういう問題じゃなくてさ、やっぱ時間帯もというか男子と女子で密室に2人じゃん(笑)」
「女子だ…(笑)」
「サチと何かした?」
「したって言ってた?」
「してても言わないでしょ(笑)」
「まぁキスとか何もしてないけどおっぱい揉んだ」
「ってか色々ウケるんだけど。まぁ揉まれただけって言わないか(笑)」
「もうサチの話はいいじゃん、オレが絶対悪いヤツみたいになるし。そろそろ車戻ろうか(笑)」
「うん(笑)」
「それより、ぶっちゃけカーSEXってしたことある?」
「ないない!だってまだ皆車持ちどころか免許持ってないでしょ?」
「確かに。じゃぁこうやって今度は昼間2人で何処かへ行こうよ」
「マジ?行く!」
「もちろんカーSEX抜きだよ?」
「当たり前じゃん!(笑)」
「それならイイけどそっちの方期待されちゃったらオレもソワソワしちゃうよ(笑)」
「馬鹿じゃん。でもぶっちゃけ私SEXは嫌いじゃないけどもっと好きなコトあるかも…」
「何それ?」
「当ててみて(照)」
「うーん…。じゃぁ、クンニ」
「違う。もっと可愛い感じのヤツ」
「おっぱい舐められるとか?」
「それも違う。ってかエロいのばっかじゃん、そもそも私おっぱい無いもん」
「え?そういう話じゃなくて?普通におっぱいあるじゃん」
「もういいや。私SEXとかよりもキスが好き…」
胸が無いと言いながら自分の両胸に手を当てる仕草で僕の顔を見上げながら文香がそう言う。
そう言われたところで僕にどうしろと言うのだろうかと、特に意図は無いのだろうがなかなかな秘密を聞き出せたコトについては少々面食らいつつもある。
車に戻ってからもその調子で会話は続く。
「城西くんはさ、ヤリチンなの?」
「ドコからがヤリチンなのかね?」
「分からない(笑)」
「何人とヤったとかかな?」
「ねぇ、じゃぁ何人?(笑)」
「分からない(笑)」
「ヤリチンじゃん!(笑)」
「数えて無いだけだよ。じゃぁ文香さんは?」
「私は3人。普通に付き合ったヒトの数と一致するでしょ(笑)」
「オレは30人くらいかなぁ。付き合った人数は3人くらいだけど(笑)」
「ほら、やっぱヤリチンだ。付き合った人数と違う!私に手を出しても無駄だよ(笑)」
「ヤろうとしてねーし(笑)」
文香はそう言いながらまた両胸を手で押さえて隠してガードを堅めるような仕草でニコニコと微笑む。
僕の方こそ、この場で文香と関係を持つことよりも、こうやってヒト目に隠れながらでも2人で会える時間が出来る方が本望だった。
しかしどういう訳か文香の視線が思いの外僕の顔をじっと捉えている時間が心なしか度合いが増していることにこちらも平静を装い切れずにもいた。
文香は気持ち斜めに倒した助手席のシートに真横に縋りながらこちらから視線を逸らさない。
眼の色は合流した当初と変わらず微笑んだままであるが若干トロンとた様子も窺える。
堪らず僕が問う。
「どうした?(笑)」
「え…?」
「ん?」
「何かマッタリしてきちゃった…」
その甘えたような表情に僕も抑えなくなり顔を近づけて顎に手を添えると、文香が顎を差し出しながら眼を閉じた。
そのまま僕が文香のクチ元を唇で覆う。
小さくて薄い文香の舌が僕の唇をこじ開けて入って来たかと思うと僕の舌と静かに絡まるように重なった。
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