第8話

4月の末に就職先が決まりこのゴールデンウイークは何をして過ごそうかと持て余しそうだ。

特に卒業旅行で海外にでも行こうなどという予定も金も無いし、何か楽しみのためにバイトに明け暮れたくとも、田舎街には軽いタッチで小遣い稼ぎ出来るような職も限られてくるからその手段を探すのにも骨が折れる。


来春から皆を追う形で僕も上京しようとしていたというのに、ここ最近になって立て続けに馴染みのツレが仕事を辞めたり、卒業しても都市部での職に有り付けず結局地元に帰って来てもいて、彼ら自身もダラダラとした日々を過ごしているようだ。

そんなことならと、高校卒業以来揃わなくなっていた馴染みのメンツで久々に街へ繰り出そうと、我ながら進歩がないのだが昼間から皆で予定を合わせてはいた。


以前と違うのは後輩連中も車の免許を持っているので、わざわざ自分達がアシに成らなくとも街へ繰り出せるという点は利点だった。酒が飲める。

今となっては車数台に乗り分けて移動が出来るのでまだ良いものの、以前はワンボックスカー1台にぎゅうぎゅうに詰めて乗り込み、2、3人組の女性に声を掛けては遊んでいた。

当然コチラと同じような同年代の10人前後の団体然としたグループなどこんな小さな街にはそういないのだから仕方ないと言えば仕方ないのだが、こんなロクでもなさそうな野郎の詰め込まれた車に誰が乗って来るだろうと振り返ると思う。

だが一定の割合いでノリ気に応じてくれる女性もいるのだから不思議なものだ。

車数台に乗り合わせて街でナンパ対決などもよくやった。

声を掛けては「多分今キミ達のお友達に声を掛けられたところだよ。頑張って(笑)」などと返されたり、無事に連れ出せたことをネタ的に偽ろうと、深夜のファミレスのパートのおばちゃんに「『私今からこのヒト達と遊ぶのよ。この勝負アナタ達の負けね』って出来るだけ若い声でこの電話の相手に言って下さい!(笑)」などとアホみたいなネタに走ることもあった。


当時は大きな車を所有する者の有志頼りで参加可能な人数にも限りがあったが、出せる車の台数が増えてくるといつしかそんなことも気にならなくなっていた。

とはいえ、車さえ出せば仲間に加われるとメンツが過剰に集まりがちな点は否めず、オトコだけでいつも10人以上は集まる。

揃うメンツが揃いさえすれば後はどうにでもなるだろうとこの日も特に何も決めず、とりあえずはいつものボーリングやカラオケ、ゲームセンターから成るアミューズメントスポットへと出向き、まずはヒトの出具合いを探ることにした。

連休だからか帰省中らしき同世代の垢抜けた女性が普段よりも多く感じるが、やはり皆2、3人で1組といったグループでいる。

ただそれも想定内のことだった。


遊びに夢中の女性は後回しにして、まずは広い駐車場内をローラー作戦の如くグルリと周回しながら、車から出ず車内で会話を楽しんでいる女性に片っ端から声を掛けていく。

車内の女性への外からの当然アプローチは「ちょっと窓開けてもらっていい?」と窓をコンコンと鳴らすところから始まるのだが、旧式のレバーをぐるぐると回して窓を上げ下げする仕草なんかでのっけからボケを咬ますことも出来るので、極端な話そのまま車を出されてその場を離れられるでもされなければシカトされることも無かった。


会話を開始したところで「せっかくなので駐車場内で出来るだけ多くの女性に声を掛けよう」くらいのノリでいる僕達としては、テンポ良く和ませては「じゃぁまた戻ってくるから何して遊ぶか考えといて!」とその場を一旦は離れ、そこから見える位置であろうと別の車の女性にまた同じアプローチで声を掛けるという行為をひたすら繰り返していく。

大抵の場合、手前で声を掛けた女性達は僕達のその姿を見世物的に車内から見物しているため、戻ったところで「あれ、どうしたの?ダメだった?(笑)」といった反応を返してくれ、そこから更にバカな会話で和む場合も多く、その場で連れ出すことがなくとも、余程のことが無い限り連絡先を交換しては後日に連れ合って飲みに出掛けたり、2人で食事やドライブへ、などという発展も何ら珍しくもなかった。

僕らにしてみても1組、1組に想い入れすることもなく、とはいえどのグループともオープンに振る舞い和む程度のトークスキルを備えていたためか、相手側にとっても「遊ぶだけなら軽いタッチで楽しみたい」と気構えせずに臨めそうなラフな印象もプラスに働くのかも知れない。


2、3人組となると1人はブスやデブだったりするのだが、それもストリートでの巡り合わせで遊ぼうとしているのならある程度の許容も必要だ。

たまに新参者とナンパをしていると、街中見渡して自分のジャストミートな好みを選りすぐったりしているので「死ねばいいのに」と思う。

「それなら1人でやれ」といつも思う。

基本的にヒトの好みは割れるのだ。


そんな感じで次から次へと声を掛けては数台の車やグループに手際良く目処をつけていくと、結局コチラに10数人いようとも遊び相手は見つかる訳で、この日も中心に立ってあれこれ手配に立ち回るジローと他の顔面の造りの良い数人の仲間とでコチラの車台数分の女性のグループを仲間に当てがい、あとは散ってそれぞれで楽しもうとことは運んだ。


そんな中、僕と都内の美容サロンに就職しながらも先輩スタイリストに手を出して居づらくなって地元へ逃げ帰っていたリュウの2人は、ジローが昼間に何処かで連絡先を交換していたという女性を「1人待たせているので、2人で行って来てくれないか」と言うので、リュウの運転する車で待ち合わせとなる閉店間際の書店の駐車場へと向かっていた。


リュウの下手くそなハンドル捌きにイライラしながら助手席に座って窓の外を眺めている。

この辺りの交通量の少ない慣れたエリアだと特段ヒヤリとさせられることもないのだが、会話に夢中になって体ごとこちらを向いて興奮しながら喋るのはやめてほしかった。

「いいから前を見て運転しろ」と示唆しながらそう言う僕も、対向車や通りを歩く女性がいないかを車内から外を注意深く観察している。いつからこんな癖が根付いたのだろう。

これからあわよくば3P出来るかも知れないという状況にも関わらず、「出会える時には出会っておけ」というスタンスは皆に共通して根付いていた。合コン中に女性が席を外した隙を見計らって隣のテーブルの女性グループに声を掛けるなんてコトも厭わない。


栄えたエリアや盛り場でのナンパであれば意識せずとも何てことなく女性と出会えるのだが、地方の田舎街では一定の時間帯を越すと夜はヒトすら出歩かなくなる。

都市部のツレが地元に遊びに来ると、決まって「こんなヒトがいない環境でどうやって出会うんだ?」と驚かれるのだが、真っ当な疑問だとは思う。

だがこういった問いに対して僕等は皆上手く回答出来ずにいた。

こんな条件の良いとは言えない環境を受け入れているという点に尽きるのだが、確かに普通に考えるとナンパをしようと思えるような環境ではないのかも知れない。

そんな中でも当然の如くナンパばかりして遊んでいる僕等にしてみれば、一定の割合いで可愛い女性とも出会えるためコレがまたやめられない。

当然良いコトや奇跡的ハプニングが起きない日もあるのだが、そういったかってを如何に受け入れるかはというのは大きいと思う。

何故なら今日も他の車に当てがった中に何人も可愛い女性がいたが、あえて欲を出さずにジローが既に段取りをつけていたまだ見ぬ女性との対面に若干の期待を寄せて臨むことにした。

このところ残りモノ的福の恩恵を立て続けに肖る経験をしていたこともあり、期待を裏切られた時のガッカリ感を味わう位なら、こういう場では身を引いて適度に楽しむ位の趣向にシフトしつつあった。

何より、前のめりにガッツキ過ぎると周りが見えなくなりがちで、その場の微妙なバランスを崩すのだ。

余程の内容であれば早めに切り上げて他へ再合流すれば良い。

声を掛けたりと実働そのものを担っているのは僕等主要なメンツの手柄なので誰も文句は言わないだろう。


指定された書店の駐車場に到着すると、自販機の脇のベンチに1人の女性が携帯電話を片手に腰を下ろしているのが見て取れた。

車を停車させるとコチラを伺う様子でゆっくりと近付いて来たので窓から顔を出して合図を送り、後部座席へと促した。

「はじめまして〜。ってか何て聞いてる?」

「『用があって外せないので友達に迎えに行ってもらうから用事が終わったら後で合流しよう』みたいな?状況よく分かってないです…(笑)」

「今日知り合ったんだよね?」

「はい、バイト休憩してたら『電話番号教えて〜』って(笑)」

「ナンパだ…(笑)」

「えぇ…?ナンパじゃないですよ。『教えて』って言われたから教えただけです」

「シカトしてやれば良かったのに。好みだったとか?あ、たまたま今彼氏がいないとかでしょ?(笑)」

「まぁそれもあります。『友達連れ合って遊ぼう』って感じだったので(笑)」

「なるほど、それで本人来てないとかなかなかトリッキーだな(笑)」

「確かに…。でも皆さんってか3人とも雰囲気似てますよね(笑)」

「勘弁してよ。せめてオレだけは外して。まぁとりあえず3人でドライブでもしながら遊んでいようか!(笑)」

「お任せします(笑)」


ジローに引き合わされた麻由を後部座席に乗せてリュウに車を出すように促す。

僕がどうにか初対面の麻由を交えこの場を和ませようとしている横でリュウは口下手でも何でもないくせにクールを気取ってか多くを喋らない姿勢を貫いている。

今日はそういう設定なのかと煩わしくも思いながら「好きにしろ」と、リュウも会話に交えようと麻由と会話を続けた。

麻由はジローが声を掛けるにしては少し落ち着き気味ではあったが、ヘアスタイルやメイクにファッションと、何れも自分に似合うものを理解しているといった出で立ちの女性らしさの溢れる2歳下の看護師だった。

途中、コンビニで適当にドリンク類の調達を済ませて少し開けた高台にある市の複合スポーツ施設の駐車場に車を停めた。

リュウの設定を無視しながら雑に話を振っていると本人も面倒くさくなってきたのか、案外サラリと当初の姿勢を崩したので3人でまるでこの場で初めて会った様にはない位にバカ話で盛り上がっていた。


いつまでもダラダラと何も試みずに過ごすつもりは毛頭ないのだが、女性が1人というこの場においては少し気遣いが必要だ。

どのみち良い感じに男女の関係に発展させようとした場合、やはり1度2人きりの状況を作るのが得策だという考えはあった。

そこで、天然なのかバカで自己中なのか、モノ解りの余り宜しくないリュウに一旦はこの場を譲り、「どこかで絶対代われよ」と念押しし、麻由には「着信が入っていたので掛け直して来る」と告げて僕は車外へと外した。

1点だけ懸念があるとすれば、リュウのいつもの傾向として途中からどの様に入れ替わろうかという機転を利かせてくれるというよりは、「この場は自分に譲ってくれた」と都合よく捉えてダラダラと2人きりの時間を堪能しがちな点だ。

その間が非常に長いと身内からは苦評を浴び続けながらも適当に言い訳をしてはのらりくらりと躱し続けている。

加えてコイツは意図してか、女性に対して色を使いがちで、中身が空っぽのくせに格好付けて惚れさせてコトに及ぼうとするので、そう仕上がったところで僕が後からどの様に混ざって行くべきかは読めない部分もあった。

これだけの突っ込みどころを要しながらこの場を連れ合う仲間として見誤ったと幾らか後悔しつつも、「オトコ2人で会話をしたりダラダラ過ごす分には相性が良いのだから」と自分に言い聞かせつつ、僕自身も楽しんでやろうという希望を捨てず、一旦離れた車に近付いて様子を伺うことにした。


街灯との微妙な位置関係からか、車外から内部をが見えやすく、遠目から見ても運転席にいたはずのリュウが後部座席に移動している様子は把握出来た。

なるべく車から近い街灯の反対側から近付いて行くと、リュウが麻由にキスをしたりアタマを撫でたり密着してスキンシップを図っており、アプローチは開始しているようだった。

例に漏れずイチャイチャ自体を堪能しており、ココからが非常に長いのだが、コレも想定内だと更に車に近付いたところで車内のリュウと目が合った。

露骨に驚いた表情を返したので真剣に腹が立ったが、そこは麻由には気付かれないように後頭部に片手を被せながら濃厚なキスを重ねて誤魔化したので「たまにはやるじゃないか」と胸を撫で下ろした。

「近くで待っているから早く済ませろ」と急かせる様にジェスチャーを送る。

意図を察知してか、リュウが麻由の服を脱がしにかかって体勢を変えたのを確認した僕は、今一度車から離れて待つことにした。


リュウの情事など覗きたくもないのだが、この日初対面の麻由の裸体を車外から覗き見るという行為にはやはり幾らか興奮を覚える。

見立てとしては、リュウがフィニッシュを決めてから服を着直す間のタイミングで車に戻り、「2人だけで抜け駆けとはズルいのではないか(寂)」と拗ねて、そのまま服を着せない作戦などはどうだろうと再度車に近付い行く。

手際良くコトに及んでいればそろそろ終わる頃だろうという目星は見事に外れ、調度リュウが麻由にアレを咥えさせようと、腰を浮かせて下着を脱ごうしている間抜けな光景が視界に入る。

「相変わらず悠長なヤツだ」とイラッとしながらも、リュウのバカづらもこの際だから至近距離で拝んでやろうと更に車に近付く。


麻由の背後の位置になる助手席の前方部から後部座席を覗く格好にポジションを取るとリュウが僕に気付き、恥ずかし気に「分かったからまだ向こうへ行ってろ」といった具合いに顎で突いて来た。

構わず変顔を返してその場を動く気がない意思を示したところ、調度カラダを起こして顔を上げたトップレス姿の麻由が僕の影の位置に違和感を感じたのかこちらを振り返り、案の定麻由とバッチリと目が合った。

次の瞬間、車外にまで聞こえる悲鳴を上げ、状況が理解出来ないまま両手で顔を隠しながら嗚咽を漏らす様子の麻由に、フォローせねばと咄嗟に僕も車内へ戻ろうとリュウにロック解除を促した。

「隠すのおっぱいじゃなく顔なんだ…」と妙に感心していると、慌てた様子でリュウがロックを解除したので、一旦は僕も何も考えずとりあえず取り繕おうと車に乗り込んだ。

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