高校生のころの自分に読ませたい

作品全体を通じてひしひしと伝わってくるのは、高校生の頃の将来の進路に対する漠然とした焦燥感です。

なぜ、これほどまでに胸に迫ってくるものがあるのでしょうか?
その理由の一つに、以下が挙げられるでしょう。
高校生を主題に物語を描く場合、その生活の一面(大抵は部活もしくは恋愛と相場は決まっておりますが)を切り取って、面白い部分だけを抽出してお話を作っている場合が多いです。
しかし本作では、恋愛、友情、勉強、進路、家庭の事情など、彼らの生活のすべてを余すところなく描き切っています。
様々なファクターを通すことによって、そのたびに登場人物の人間性が浮かび上がり、キャラクターとしての強度が上がります。
そのようにして鍛え上げられた等身大の登場人物がどのようなことに悩み、何を選択していくのか――。
だからこそ、私たち読者は真剣に彼らを応援し、またその姿に自分自身を重ね合わせてしまいます。


また、登場人物がお互いに何かを抱えており、それを互いに探り合う展開はミステリ好きの方々にも満足を与えるでしょう。
それらの謎が一つひとつ丁寧に紐解かれ、そのたびにキャラクター同士に新しい結びつきが生まれ、物語はある1日を目掛けて加速していきます。
そしてその日、彼らは自分の人生を、自分の手で大きく動かしていきます。

私が高校生の頃にこの作品に出合っていたら、私の人生は変わっていたのかもしれません。それに、もしかしたら今からでも遅くないのかもしれません。
心から『ありがとう』と言うのは、きっと私の方なのでしょう。

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