高校生の男女によって語られる、彼らの素直な気持ち。葛藤、不安。決意。
時にぶつかりあい、ときに励ましあいながら、すべてが「誰かを思う気持ち」に昇華されていきます。
じっくり、少しずつ拝読いたしました。
いつどのページを開いても、そこには若々しい少年少女のまっすぐな気持ちがありました。
誰かのために、動きたい。持てる力を注ぎこみたい。
これほど直球で心を動かされるテーマが、他にあるでしょうか。
「ありがとう」という言葉の力を、改めて考えさせてくれる良作です。
私も、「こんな素敵なお話を読ませてくださって、ありがとうございます」と伝えたいと思います。
本格的に進路を考えなければいけない時期なのに、やりたい事も見つからず、何かに必至になる事も無い、高校生の礼。似たような経験をした方も多いのではないでしょうか?
しかしそんな礼の元に天野川蛍と名乗る少女がやってきてはそれを𠮟りつけます。
最初はそんな彼女に翻弄され、更には礼が想いをよせる相手、真宮天華も絡んできて、事態は思わぬ方向へと転がり始めます。
一人一人の心情がとても繊細に描かれていて、先にあげた礼の無気力感や、天華が周りに対して感じている壁、ホタルの抱えている事情など、時に切なく、時に苦しく、全ての登場人物に対して共感を抱くことが出来ました。
そして何より、タイトルにもなっている心からの『ありがとう』。
最後まで読んだ時、この言葉にどれだけの思いが込められていたかが分かります。
この物語の成瀬礼。将来やるべき事が見つかっていなくて、好きな女の子はいるけど、何か行動を起こすわけでもない。彼はそんなどこにでもいる、普通の男子高校生です。
しかし、ある日彼の前に現れた天野川蛍という女の子。彼女との出会いから、運命の歯車は回り始めます。
この天野川蛍、好きな相手と仲良くなるよう後押ししたり、きちんと勉強するよう口やかましく言ってきたりと、何かと礼に構うわけですが。その言動の一つ一つに『重み』を感じるのです。
些細な事で揺れて悩みも多い高校生達。天野川蛍の存在が礼やその周りの人達の心を徐々に変えていく。
いったい彼女は何者で、何をそんなに必死になっているのか?そこには彼女なりの、切ない理由があって……
読み終わって思った事は、みんながみんな必死に頑張ったという事。
心からの『ありがとう』というタイトルに恥じない感謝の気持がたくさん詰まった今作。読み終わった時心に温かさが残る名作です。
作品全体を通じてひしひしと伝わってくるのは、高校生の頃の将来の進路に対する漠然とした焦燥感です。
なぜ、これほどまでに胸に迫ってくるものがあるのでしょうか?
その理由の一つに、以下が挙げられるでしょう。
高校生を主題に物語を描く場合、その生活の一面(大抵は部活もしくは恋愛と相場は決まっておりますが)を切り取って、面白い部分だけを抽出してお話を作っている場合が多いです。
しかし本作では、恋愛、友情、勉強、進路、家庭の事情など、彼らの生活のすべてを余すところなく描き切っています。
様々なファクターを通すことによって、そのたびに登場人物の人間性が浮かび上がり、キャラクターとしての強度が上がります。
そのようにして鍛え上げられた等身大の登場人物がどのようなことに悩み、何を選択していくのか――。
だからこそ、私たち読者は真剣に彼らを応援し、またその姿に自分自身を重ね合わせてしまいます。
また、登場人物がお互いに何かを抱えており、それを互いに探り合う展開はミステリ好きの方々にも満足を与えるでしょう。
それらの謎が一つひとつ丁寧に紐解かれ、そのたびにキャラクター同士に新しい結びつきが生まれ、物語はある1日を目掛けて加速していきます。
そしてその日、彼らは自分の人生を、自分の手で大きく動かしていきます。
私が高校生の頃にこの作品に出合っていたら、私の人生は変わっていたのかもしれません。それに、もしかしたら今からでも遅くないのかもしれません。
心から『ありがとう』と言うのは、きっと私の方なのでしょう。
とても綺麗な言葉で全てが丁寧に綴られた、限りなく現代ドラマに近い、心揺さぶられるファンタジー作品。
タイトルに、この作品の全てが詰まっていると言っても過言ではありません。
将来の夢も特に無く、毎日適当に生きていた主人公の前に、突然現れた謎の美少女により、登場人物それぞれの運命が大きく変わっていく。
それが恋愛を主軸に、とても読みやすい文章で、主要人物の現在・過去・未来を詳細に描きながら物語は進んでいきます。
これら情景描写、心理描写が、本作では一貫してとにかく丁寧で、現実味に溢れている。それゆえ、登場人物全員に共感でき、時に切なく、時に苦しくもなりながら、自然と次が気になり読み進めてしまいました。
後半で、タイトルの意味が明らかになった時の胸の痛み、切なさは、一言では言い表せません。
等身大の高校生たちが、懸命に今を生きる姿に、きっとあなたも涙することでしょう。
「ありがとう」を伝えたい相手は誰なのか、どうして最後なのか、是非あなたも主人公たちの成長と共に、確認してみて下さい。
最後の一文が、これ程胸に響く作品に出会えて、本当に良かったと思います。