概要
蝶のイデアを閉じこめた詩集「標本集」を、私はこの手で燃やした。
羽生犀星(はにゅうさいせい)は、天才である。誰にも知られないまま亡くなった天才的な詩人にして、太古の人類が身に着けていたであろう技術を独力で再発見した天才だった。彼は言葉を用いて、言葉が喚起するイメージを当事者の認識の中で実在させる能力を身に着けていた。羽生はそれを「魔術」と呼んだ。
「私」は彼が作り上げた唯一の書物をこの世から消し去ったものとして、この文章を記す義務がある。――彼の遺作「標本集」の成り立ちと顛末を語ることで、私と羽生の物語に、エンドマークを打つために。
※本作品は2018年10月28日の文学フリマ福岡にて出品する同人誌に収録する短編小説を、全文掲載したものです。
「私」は彼が作り上げた唯一の書物をこの世から消し去ったものとして、この文章を記す義務がある。――彼の遺作「標本集」の成り立ちと顛末を語ることで、私と羽生の物語に、エンドマークを打つために。
※本作品は2018年10月28日の文学フリマ福岡にて出品する同人誌に収録する短編小説を、全文掲載したものです。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!ことば、天才、そして蝶
ぼくは常々、人間は物質の世界とは別に、ことばの世界を(自覚する・しないを問わず)生きているなあ、と思っているのですが、そのことをつくづく実感させられるような小説でした。ことばに魅せられ、ことばの限界に苦しみ、だからこそ、その限界の向こう側に飛翔しようとしたひとりの人間の物語。その物語を語るのが、その人物の最も親しい友人であるのは、まったく当然のことでしょう。天才を天才としてあるがままに描くのは、事実上不可能です。なぜなら、天才は本質的に理解不可能なものですから。おもてに現れたものは何とかわかっても、その裏にある精神まではわかりきることはできない。だからこそ、天才は間接的に描かれるしかないので…続きを読む