ルリヨモギギク……ゆうしゃはその言葉を、ふかく心にきざみこんだ!

荒廃した地球と、月に建造されたコロニーで生きる人々の群像劇。
主な舞台となる地球は緩やかな衰退への道を辿っており、どこか風の谷のナウシカを彷彿とさせるような世界観。腐海の森へ帰る王蟲はいないけど、人の身体を腐らせる小っちゃい虫が存在したりしています。

この作品が見事なのは、なによりもまず、作中の情報を明かしていく匙加減が抜群に上手い所。

SF小説って、どうしてもその作品独自の特殊な世界構造や、そこに存在する文化体系などの説明が長くなりがちです。まあ、「重厚な世界観あってこそのSFだ!」って方もいらっしゃるし、ぶっちゃけそこは好みの問題なんですが、「SFって重いよなぁ……」と感じて、敬遠する人もまたいるわけで……。

しかし、この「めぐりの星の迷い子たち」は、読んでいてそういった重さを全然感じさせません。
もちろん、地球が荒廃していった理由を仄めかす描写や、地球における生活の様子、月コロニー社会の説明などはちゃんとあるんです。
でもそれらが決して押しつけがましくなく、作中各所に極めてバランスよく配置されているから、文章自体はスイスイ読みやすいのに、「ああ、ここはこういう世界なんだなぁ」というのが、自然に頭に入ってくるんです。

こいつはただ事じゃありませんよ。気付いたら、「ルリヨモギギク」という単語も、スルっと頭の中に棲みついているんですもの。スピードラーニングもびっくりの記憶定着率ですよ、これは。

そしてもう一つ特筆すべきは、時系列の散りばめ方の巧みさ。

この作品は、登場キャラクターの一人称視点が切り替わって物語の場面が転換していきますが、この切り替わりによって、作中時間の流れも前後しています。

普通なら頭がこんがらがってしまいますが、そこもまた、作者さまの絶妙な匙加減と舌ざわり(?)によって、上手い具合に調理が為されており、むしろその時系列の変化を利用して、物語の続きが気になる書き方になっているんです。

「むぅっ⁉ なぜここに、ルリヨモギギクが……」ってな具合に、気付いた時にはもう、一話、また一話とページをめくる手が止まらなくなっていきます。いつの間にか、我々は作者さまの手のひらの上でコロコロと転がされているのです。恐ろしや! あな恐ろしや!

それから、なんといっても読んでいてたまらないのが、登場人物たちの心の動きと、その生き様ですね。

もうほんと、「ああ。この人たちは、ちゃんと生きてるんだなぁ……」ってことを実感させられる。時に「このリア充め! 滅せよ‼」とか思った時もあった気がしないでもないけど、思わず「頑張れー!」って言いたくなってしまうほど、キャラクターに感情移入してしまうんですよ。

しんみりしたりヤキモキしてしまう描写や場面も多々あるけれど、読後にはどこかほんわりと、心が温かい物で満たされている、そんな素敵な物語。

作者さまのオシャレ大臣なネーミングセンスも、作中で遺憾なく発揮されております。
まじでなんなの、ルリヨモギギク。もう、頭から離れないんですけど。
ヨモギ餅見るたびに、ルリヨモギギクを思い出して、「ジンさーーーん!」って、条件反射で涙してしまうんですけど。本当に困ったもんです(涙)

是非これからこの作品を読む皆さんにも、読後には涙無しでヨモギ餅を食べられない体質になってほしいと思います。
荒廃した世界で逞しく生きる人々の姿に感涙しながら、一緒に涙で塩味が付いたヨモギ餅を食べましょう。もぐもぐ。

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