青春亡者の読者を一本釣り。やいやいやー!

 まず、キャッチコピーの突然の本マグロに驚きました。畳はまだしも、マグロのチョイスはナイスですね。

 作者さまの青春描写の巧者っぷりには、もう何度もやいやいやーと唸らされてきたわけなのですが、今作もまた、素晴らしい短編に仕上がっていらっしゃいます。これには、青春小説の読書に人生を賭けた男たちも、思わず感涙してしまうことでしょう。
 
 物語の舞台自体は、現在の世情を反映しつつ、その日常生活における何気ないワンシーンを切り取った感じなのですが……その何気ないドラマの青春密度が、濃厚カルピスも顔負けの濃ゆさです。初見で四千字以内だと気づきませんでした。

 「あれ。成井さんって、現役高校生だっけかー?」と脳が錯覚を起こすほど、明人くんの心情描写にリアリティがあり、「あー、今の高校生、こういう感じでヤキモキしそぉ……」と、共感を覚えてしまいました。マスクと桜の使い方が、個人的に絶妙でした。