魂に休息は訪れるのだろうか

山羊のシモン(旧fnro)

仄暗い大地

 ポールの頭にはかすみがかかっているかのようだ。

 何故自分がここに居るのか理解ができない。薄暗く月明かりが仄かに地面を照らしている。辺りを見渡してもやがかかっているのか遠くまで見通すことはできなかった。


 トクントクン──


 歩き出そうとしたその時、急に鼓動が大きくなっていることに気づく。反射的に岩陰に隠れた。

 何故このような行動を採ったのか、そして身体を縮めているのか理解ができないが、本能的に危険を察知したのだろう。落ち着くまでこの場に留まることにした。


 数分もなかった。しかし彼にはそれが数時間にも感じられたのだ。心拍数が落ち着いていく気配はない。背筋が凍るようだった。

 痺れを切らして立ち上がろうとした刹那、右前方にある草叢くさむらが左右にお辞儀をする。


 息を潜めながら凝視。


 次の瞬間、驚きで声を上げそうになった。そこには両目を光らせた巨人が悠々と歩いていたのだ。その右手には鉈を、左手には斧を数本携えている。獲物を捜しているのだろうか、きょろきょろを周囲を確認しながら足早に通り過ぎて行った。


 巨人が視界から消えた頃、忘れていた呼吸を思い出す。汗が噴き出しているのがわかった。岩には手の形がくっきりと残る。

 どういう理由かもどのようにしてかも不明だが、殺人鬼と思しき巨人のいる場所に居る。このままずっと隠れ続けることができるとは思えなかった。脱出する術があるのかどうかはわからないが、この場に留まっていてもなにひとつ解決は望めない。

 すくんでいる足に勇気を与え、一歩を踏み出した。まずは置かれている状況を確認することが先決だったからだ。


 目的地を定めずに彷徨うろつくことは死につながる予感がする。安全に隠れられて全体を見渡せるところを探すことに決めた。

 ポールは常に神経を尖らせ、気配を伺いつつゆっくりと前へ進んでいく。隣でカラスが不気味な声を発するたびに心臓が止まりそうになった。


 夜目に多少慣れてきたのだろうか、さっきより少し先まで見通せるようになったおかげで二階建ての小屋が目に入った。あそこならば落ち着いて考えられそうだ。

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