合図
殺人鬼は見失ってはいなかった。地面に残る血痕を辿って近くまで来ていたのだ。しかもさっき肩に触れたときに
その結果が目の前の斧だ。
淡い月の光を鈍く反射しているそれは、お前を刈り取れなくて残念だと言わんばかりだ。
鼓動が爆音のように頭に響く。
目の前の木々の間を殺人鬼が旋回していた。その動きに合わせて必死に視界に入らないようにする。草を踏みしめる音と漏れてしまう声とでポールは確実に追い詰められていった。
数本先にまで迫ったとき、ブザー音が周囲に響き渡った。
中央の柱にある電灯が光っている。作業を終えたことの合図だ。
ここで飛び出して全力で走りたくなる気持ちを必死で抑えた。相手は飛び道具を持っている。かといって振り返りながらだと追いつかれてしまう可能性が高い。必死に我慢した。
奴は合図音を耳にしてそちらを向いた。その一瞬の隙を突いて、より安全そうな岩陰へと移動する。
そこにはちょっとした木箱が置かれているのに気が付いた。殺人鬼はポールを追いかけ続けるか、脱出口へ移動するか迷っている。音を立てないように注意しながらそっと蓋を開けると、そこには医療キットが入っていた。必死に応急手当てを施すと、痛みが引いていった。
あとは脱出口まで辿りつけたら──みんなは無事に出られたのだろうか。
眼光がこちらを捕らえたかに思われたが、諦めたのだろう。移動しはじめた。
そもそもポールは脱出場所を知らない。闇雲に動いても仕方がないのは承知していた。
あいつに付いていけばすんなり出られるかもしれない──しかし、かなりの危険を伴う。それよりは壁伝いに行ったほうが遠回りにはなるかもしれないが、安全だろう。
殺人鬼が悠然とこの場を離れていくのを尻目に、ゆっくりと壁に沿って歩き始めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます