無念の脱出、そして

 迷路では右手を壁につけたまま歩いていけば、いずれ出口に辿りつける。

 ポールは周囲への警戒を怠らないようにしつつ、壁沿いに進んでいった。暗く多少の湿り気を感じるこの場所から、一刻も早く脱出したい──そう願いながら。


 永遠を彷徨さまよい続けるかのような感覚。

 もしかしたら脱出口は壁際にないのかもしれないという不安がよぎったとき、それは口を開いていた。三人は先に出ることなく待っていてくれている。すごく有難かった。アリスを助けた甲斐があったというものだ。

 向こうもポールの姿を確認する。遠目ではあるが安堵の表情を浮かべていた。


 思わず駆け出してしまった。

 経験上、一撃では捕らえられるほどの怪我を負うことはないという慢心。


 本来ならば気づくはずの殺人鬼の視線に気づかなかった。両目を細めて一直線に向かってくる。クリスはアリスの手を掴んだまま、出口付近で待機していた。トミーは必死に手招きをしている。


 このまま一気に走れば出られる──そのとき、これまでにない衝撃が左の腰辺りを走る。思わず地面へ倒れこんだ。


 ありえないほどの血が流れ出ていく。奴は鉈も斧も腰にぶら下げ、両手を広げて迫ってくる。担ぎ上げようとしているのだ。

 三人は咄嗟の判断でポールの前に立ちはだかる。


「そのまま這って出ろ!」


 トミーが叫ぶ。

 クリスとアリスは必死に殺人鬼の気を引こうとしている。

 斧が飛び交い、鉈を振るう音が不気味に木霊する。


 ポールは最後の力を振り絞って出口まで辿りついた。


「逃げちゃって!」


 クリスの声が聞こえる。

 自分だけ逃げてしまうことに抵抗を感じたものの、今の自分には何もできない。

 悔しさを噛みしめながら脱出口を通過した。絶対みんなを助けるために戻ってくると誓って


 出口の先は真っ暗な小部屋だ。

 全身を拘束される。此処で治療を受けられるのだろうか。男の声が頭に木霊する。しっかりと聞き取ることはできない。薄れゆく意識の中で、また三人に会いたいと強く願った──


 そして、望まぬ形で叶えられることになる。

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