捕らえられた女性

 ポールは周囲を警戒しながら小走りで小屋に駆け込もうとしたが、中に入ることはなかった。

 目の前には吊るされた檻に入れられた女性。その狭い牢獄からこちらに眼差しを投げかけていたのだ。


 あの化け物に捕まるとここに放り込まれるのか──


 さっと辺りを見渡した。幸い、化け物の気配は感じられない。

 開錠するのに若干手間取ってしまったが、女性を解放した。するとお礼もほどほどに駆け出していく。呆気にとられつつも後ろをついていった。


 壁際の岩陰を見つけると、二人で一息つく。


「助けてくれてありがとう」

「いや……目の前で困っている女性に手を差し伸べないのは男としてどうかと」

「もしかして、貴方最近ここに放り込まれたの?」

「そうだけど」


 よく見ると彼女は負傷していた。

 ポケットをまさぐると応急手当のセットがあったので、それで傷を塞ぐ。何度も失敗しそうになるが、そのたびに小さな呻き声をあげている。


「ここから脱出する方法、知ってる?」

「わからない」

「目の前に機械が見えるかしら」


 彼女の指さす方向に、見慣れない装置が置かれていた。


「あれの設定を弄ると脱出するためのゲートが開くの」

「そのゲートからなら逃げられるってことか」

「ええ」


 すると、彼女が人差し指を口に当てる。黙れという合図だ。素直に従って様子を伺っていると、ポールはまた先ほどと同じような悪寒が全身を駆け巡る。

 彼女が目で訴えかけている方向に目をやると、先ほど自分がやり過ごした殺人鬼が機械を触っていた。両目は不気味に光り、左手は斧を数本握ったままだ。恐怖のあまり、しっかりとその容姿を確認することすらできない。


 何かしらの設定が終わったのか、今度は周囲を確認しはじめた。心拍数は上昇を極める。この心音でここが見つかってしまうのではないかという不安で額から汗が垂れる。じとっとした感触が頬を撫で、地面に吸い込まれていった。


 位置取りがよかったのだろうか、しばらく周辺を彷徨いた後に殺人鬼はこの場を離れた。ポールは安堵で腰を抜かしそうになる。彼女はというと、意外にもしっかりとした顔つきだ。


「あいつに捕まったら、さっきみたいな檻に放り込まれるわ」

「ああ……」

「さっきはありがとう。挨拶が遅れたわね。私はパメラ。よろしくね」

「僕はポール。よろしく」


 パメラに促され、殺人鬼が触っていた機械を修理しはじめた。

 いつまた奴がここに戻ってくるかわからないという不安を抱きつつも、ゆっくりとでも確実に機械の調整をはじめる。パメラはこの世界について、より詳しく語りだすのだった。

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